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公式ブログ 沼尻隆一弁護士の記事

弁護士沼尻隆一のブログ記事

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なお,2015年5月以前に掲載された過去のコラムは,こちらの 浦和法律事務所の(旧)ブログのページ からご覧いただけます。



人身傷害保険会社が加害者から支払われた賠償金を代位取得できる範囲のことなど

弁護士 沼尻隆一

 

 

交通事故にあった際に,加害者が車の保険(任意保険)に入っていれば,原則として,その任意保険会社から損害賠償金を受け取ることができるわけですが,それとは別に,自分のほうの車両に付保されていた「人身傷害保険」からの保険金(補償)を受け取ることができる場合があります。

 

加害者側の保険会社との示談交渉が難航しているようなときに,場合によっては,人身傷害保険から先に,保険金の支払いを受けることがあるのです。

 

そして,その後になって,加害者(側の保険会社)から賠償金(示談金など)が支払われるときに,先に保険金を支払った人身傷害保険会社から,支払われた賠償金について請求権を代位取得している分を回収させて欲しいといった要請を受けることもあります。

この場合,人身傷害保険会社が被害者に代わり,加害者に対する損害賠償請求権を代位取得できる範囲については,人身傷害保険会社が被害者に支払った金額のうち全額を,代位債権として取得できるわけではわけではありません。

 

近年なされた最高裁の判例,及び,その後の保険法の改正によって,人身傷害保険会社が被害者に支払った保険金のうち,被害者に代わって加害者への請求権を取得できる部分は,支払った金額全額ではなく,極めて分かりやすく言えば,被害者側の過失割合に相当する部分を超えて支払った部分に限られます。

しかも,その前提として,訴訟になった場合に通常認められる賠償額を基準として,過失割合に相当する金額を算定することになります。このような取扱いは,「訴訟基準差額説」といわれており,現在の実務の支配的取扱とされております。

 

例をあげれば,訴訟になった場合に通常認定されるような,いわゆる「赤い本」基準(弁護士会基準)にもとづいて算定された金額(過失相殺前の全体の損害額)が1000万円で,被害者の過失割合が3割(30%)だとした場合,人身傷害保険会社が400万円を被害者に支払ったのであれば,被害者に代わって人身傷害保険会社が自ら加害者に対し代位請求できる範囲(代位取得する債権の額)は,400万円から1000万のうちの被害者の過失割合に相当する300万を引いた残りの100万円にすぎません。

 

先ほど述べたとおり,このような取扱を,「訴訟基準差額説」といい,近年の最高裁判例で肯定された考え方として,現在の実務でも支配的とされているわけですが,中には,一般の方がこのようなことを知らないのを良いことに「あなたが受け取った賠償金のうち,前にウチ(人身傷害保険会社)から支払った金額は『全額』回収させてもらいます」などと平気で言ってくる会社も,ないわけではありません。

 

特に,加害者の加入する任意保険会社と,被害者側で加入している人身傷害保険会社がたまたま「同じ保険会社」である場合(意外と少なくありません。)などに,このような全額回収の方法が取られることが皆無ではないようですので,場合によっては注意が必要です。

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AI(人工知能)は裁判を変えるか

弁護士 沼尻 隆一

 

 

AI(人口知能)についての議論が,最近どこでも盛んです。

私の中では史上ベストスリーに入る傑作だと思っている佐藤史生さんの「ワン・ゼロ」という今から30年以上前に描かれた漫画で,一種のマッドサイエンチスト?である童門教授が人間の意識・無意識を探索する「捜神プロジェクト」の実行の為に開発した「マニアック」という「自己推論・学習型」コンピューター(つまりAI)が,あることをきっかけに「覚醒」し,自己意識を持つようになる場面があります。

漫画の登場人物の一人は,そのように自己意識を持つようになった「マニアック」を評して,既にそれは「生きる意志と目的を持った力(エネルギー)」すなわち「生き物」だと言いました。

 

新聞や雑誌によれば,医師や弁護士,会計士などといった高度な専門職の仕事も,いずれ「AI」に取って代わられる可能性が高いそうです。なにせAIの「IQ」は人間のそれをはるかに凌駕していますから,むしろ,そのような高度な知的能力・論理的思考力を要求される仕事ほど,「AIに取って代わられやすい」傾向があるのではないかと思います。

また,AIが自動運転している車が,前方の状況に応じて,事故回避のために,高度な倫理的・責任的判断を要求されるような場面も出てきそうです。(倫理学上,いわゆる「トロリーバス問題」とか,「トロッコ問題」とか言われる問題があり,ある事故結果を回避するためには別の人命等を犠牲にしなければならないような場面でどう行動するか,瞬時に極めて重大な責任判断を要求される場面があります。)

 

このような場合に備えて,AIにも人間や会社と同じような「法人格」と「責任能力」を持たせようという議論も既になされています。

そして,将来的には,もしかしたら,「AI裁判官」が出現して,「人が人を裁く」のではなく「AIが人を裁く」(あるいは,「AI」が「AI」を裁く?)といったことが,現実となるかも知れません。

 

そうなってくると,例えば刑事裁判においては,人間以上に精密な事実認定と深遠な責任判断がなされる結果,有罪とされるために必要な「合理的な疑いを容れる余地のない」立証のハードルが高くなるかも知れませんし,逆に,量刑については人間以上に厳しいかも知れません。

 

果たして,「AI裁判官」は出現するでしょうか。また,AIは裁判の世界をも変えるのでしょうか。

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韓国の法曹一元制度

弁護士 沼尻隆一

 

 

韓国では,文在寅(ムン・ジェイン)氏が新大統領に就任しましたが,ご承知のとおり,同氏は韓国で,弁護士の資格を持っています。

 

ところで,韓国では,数年前から,日本にはるかに先駆けて,「法曹一元制度」というものを導入していることを知っていますか?

法曹一元制度というのは,分かりやすく言えば,弁護士や学者(あるいは検察官)の経験を,一定期間有する者だけが,裁判官になれる制度のことをいいます。

韓国でも,従来は,日本と同様に,司法試験に合格して研修所を卒業すると直接裁判官に採用されるような仕組み(「キャリア・システム」といいます。)がとられていました。

 

弁護士など,在野での法曹経験がないまま,若い時から裁判所という国家組織の一員として,いわば「純粋培養」されますので,どうしても官僚的な(行政に追随する)判断をしがちであるとか,一般人の常識と少々かけ離れた判断をしがちである,などといった問題点を指摘されることがありました。

(ほかにも韓国では,「前官礼遇」といった特有の問題もあったようですが,日本の実情とは関係が薄いため,ここでは触れません。)

アメリカやイギリスのような「英米法系」(コモン・ロー〔市民法〕諸国ともいいます。)の国々では,法曹一元制度がむしろ一般的となっており,フランスやドイツといった「大陸法系」の国々でも,オランダやベルギーなど,法曹一元制度を部分的にでも実現している国が多くなりつつあるようです。

 

日本でも,裁判所法42条は,判事の任命資格を裁判官(判事補)に限っておらず,10年以上の弁護士等の経験を有する者にも認めておりますし,現実に,戦前,戦後の一時期に,まとまった数の弁護士が裁判官に任官した時期もあったようですが,その後,昭和30年代に入り,判事の任命については,司法研修所終了後判事補に任命され10年以上在職した者から任命されるのが通例となっていきました。

 

その後,わずかですが状況が変わり,いわゆる「弁護士任官制度」の導入によって,実務経験を有する弁護士が裁判官に任官する場合も出てまいりましたが,それとて,平均して年間一けた台にすぎません。

かって,政府の臨時司法制度調査会の意見書においても,「法曹一元の制度は,これが円滑に実現されるならば,わが国においても一つの望ましい制度である。」と結論付けられています。

 

韓国ですでに実現していることが,わが国でも実現できないはずがありません。私は,法曹一元制度は,広い意味では,より民主主義的な司法の実現に,きっと役立つのではないかと考えています。

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「養育費と婚姻費用の算定基準(日弁連の新提言)について」

                     弁護士 沼尻隆一

 

離婚に関連する夫婦関係の家事事件で,たいてい問題となるのが,ご夫婦が別居している間(通常は,離婚するまでの間)の生活費の問題であり,これを法律用語では,「婚姻費用(分担請求)」の問題といっています。

また,ご夫婦の間にお子さんがいる場合に,離婚が成立した後の,お子さんの「養育費」の支払いについても,同様に,事件の争点の一つとされることが,たいへんに多いです。

 

私も弁護士として,夫側,妻側双方の立場で代理人になることがありますが,どちらの立場からも,これらの「婚姻費用」,そして「養育費」の問題については,常に重大な関心の対象となるものです。

これらの点に関連して,昨年の年末(といっても11月のことですが),日本弁護士連合会(略して「日弁連」ともいいます。)が,「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」というものを公表しました。

 

これは,従来,家庭裁判所の実務では,裁判官や家庭裁判所の調査官によって組織された「東京・大阪養育費等研究会」という会が2003年に判例タイムズという雑誌に発表した「簡易迅速な養育費の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」という提言と,その中で示された養育費・婚姻費用の「簡易算定方式」に依拠して作成された「簡易算定表」という表があり,これにのっとった運用が支配的に(という表現は語弊があるかも知れませんが)なされてきました。

 

これに対し,今回の日弁連の「提言」では,その原則的な算定方法は,上記の「簡易算定方式」に依拠しつつも,たとえば,住居関係費や職業費の一部を総収入から控除される経費には含めないなどして,給与所得者の基礎収入を総収入の約6~7割と算定し(従来方式では約4割程度に算定されていた),あるいは,子どもの年齢区分を従来方式よりもより細かく区分するなど,最近の社会の実情に即した(2003年以降の税制及び保険料率の改正等を反映させるなどした)形で,部分的に修正を加えたものとされています。

 

もっとも,現時点では,日弁連から上記提言が公表されたというにすぎず,家庭裁判所の実務における影響や評価は,未だ未知数の段階である,というのが実際の状況のようです。

 

つい最近も,たまたま担当している事件で家庭裁判所に出向いた際に,家庭裁判所の調停委員の方々にこの提言のことを聞いてみましたが,当該調停委員の方々は,上記提言のことをほとんど,ご存じではないようでした。

弁護士としても,この提言の,家裁実務への影響なり評価の具体化が,これからどういう形で現れてくるのか,注視していきたいと思います。

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「最新判例紹介(預貯金等債権が遺産分割審判の対象となることを認めた判例)」

弁護士 沼尻隆一

 

皆さま明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。さて,今回紹介致しますのは,新聞でも報道されましたので,皆さまご存じかと思われますが,昨年の年末(12月19日)に最高裁判所で出された,「遺産分割審判の対象に預貯金が含まれる」とした判決です。

 

実はこれまで,平成16年(2004)年に出された過去の最高裁判例にもとづき,銀行預金などの債権については,原則として遺産分割審判の対象とならないような取扱いが為されてきました。したがって,例えば,預貯金だけしか遺産がない場合は相続人全員の同意がない限り遺産分割審判の手続が利用できないなどの不都合が出現していました。
今回の最高裁判例の事案も,遺産の価値の大部分を預貯金がしめ,おまけに,相続人の一人に多額の生前贈与がなされているといった事案であり,預貯金については遺産分割の対象としないとすると,かえって不都合が生じかねない事案でした。

今回の最高裁判例は,このような事案で,預貯金債権について通常の可分債権と同じように相続開始と同時に当然に分割され遺産分割の対象としないという従来の取扱いを改め,こんにち,預貯金債権は現金に近い財産であることなどを理由として,不動産その他の通常の財産と同じく,相続人全員の(一種の)共有状態にあるものとして,遺産分割審判の対象として取り扱うことを認めました。

 

裁判官15人の全員一致の結論であったことからも明らかであるように,結論の妥当性自体は,あまり異論の出ないところと思われますが,その理由付けの部分に関して言えば,今回の最高裁判例の多数意見は,通常の預貯金債権及び定期貯金(旧定期郵便貯金)については「可分債権」としてではなく相続人全員の「準共有」状態にある債権として取り扱うこととしましたが,他の債権一般についてもそのように取り扱うのかについては何も判断していません。
これに対し,相続開始時点で存在した債権は可分債権であろうとなかろうと原則として全て相続財産(=遺産分割の対象)として考慮すべきという(少数)意見(大橋正春裁判官の意見)がありました。
法務省の法制審議会で行われている民法の改正に向けての議論の中でも,遺産分割と可分債権の取扱についてはいろいろと議論と検討がなされているようですが,私見では,法制審議会での試案(中間試案)の前提となっている考え方は,どちらかといえば上記の少数意見の考え方のほうに近いようにも思われます。

 

預貯金及び定期貯金債権以外の債権についてはどこまで判例の拘束力が及ぶのかといった判例の射程の問題,預貯金債権の利息など(法定果実)の取扱いはどうするのか,あるいは,亡くなった被相続人から扶養を受けていた人のために預貯金を払い出す必要がある場合にどうするのか,などといった点については,今後まだまだ議論の余地があるように思われます。

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「裁判例の紹介(婚姻費用分担額の減額を認めた事例)」

弁護士 沼尻隆一

 

今回紹介するのは,平成28年2月19日名古屋高裁での裁判(決定)です。

婚姻費用の分担額が調停で定められた後に,夫のほうが妻以外の女性との間に3人の子をもうけたことにもとづき,最初に調停で定めた,妻に支払うべき婚姻費用の分担額の減額見直しを申立てたという事案です。

 

本決定は即時抗告審(家裁で行われた審判に対する不服申立の制度)ですが,即時抗告のもととなった原審(審判を下した家裁)は,夫が,不貞相手との間に子どもが生まれ,その子に対する扶養義務を果たすために婚姻費用分担額の減額を認めることは,不貞行為を助長・追認するも同然だとして,「信義誠実の原則」に照らし,夫側からの減額の申立てを認めませんでした。
ところが,夫から申立てた即時抗告の結果,名古屋高裁は,上記の3人の子は,夫婦の間の嫡出子らと同様,父親である上記夫から「等しく扶養を受ける権利を有する」ものとして,減額見直しを認めました。

 

原審(家裁)と即時抗告審(名古屋高裁)の判断には,それぞれに相応の理由があると私には思えますが,原審が,夫の主張が信義誠実の原則に反することを重視しているのに対し,名古屋高裁の決定は,上記のような事情に関し,何ら責任のない子らの扶養を受ける権利が結果として害されないようにすること,すなわち「子の福祉」の観点を,より重視したものと考えられましょう。

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「参院選」

弁護士 沼尻隆一

 

大人たちの多くが,「理想では現実は動かない」「理想論では国民は守れない」などとくすんだ目をしながら語るようになってしまったように思えてならない現代。
「理想」「平和」「民主主義」といったことばがきらきらと輝いていた頃へのオマージュを込めて,岩波文庫「茨木のり子全詩集」より,茨木のり子さんの素晴らしい詩を紹介します。

 

それを選んだ

 

退屈極まりないのが 平和
単調な単調なあけくれが 平和

 

生き方をそれぞれ工夫しなければならないのが 平和
男がなよなよしてくるのが 平和
女が溌剌としてくるのが 平和

 

好きな色の毛糸を好きなだけ買える
眩しさ!
ともすれば淀みそうになるものを

 

フレッシュに持ち続けてゆくのは 難しい
戦争をやるより ずっと
見知らぬ者に魂を譲り渡すより ずっと
けれど
わたくしたちは
それを
選んだ

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「空家と相続」

弁護士 沼尻隆一

 

いわゆる「空家等対策特別措置法」という法律が平成26年11月に成立しました。

 

この法律では,住む人がいないいわゆる「空き家」で,なおかつ,そのまま放置すれば「倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」の空家(築後何十年も経過して今にも倒れそうな状態の空き家),
又は「著しく衛生上有害となるおそれのある状態」の空き家(いわゆる「ごみ屋敷」のような状態の空き家),
あるいは,「適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態」の空き家(雑草や雑木が生い茂っているような状態の空き家などが想定できるでしょうか),
その他,「周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空き家等(カギがかかっていない状態で不特定の他人が容易に住み着けるような状態の空き家や,夜中など人がたむろできるような場所となっているような状態の空き家なども,これに含まれるでしょう。)」を,
市町村が「特定空き家」と指定し,状態の是正のために必要な「助言」「指導」を行うほか,助言指導でも効果がない場合などには「勧告」「命令」などの手続ができるようにした法律です。

 

この法律の最も重要なポイントは,特定空き家と指定され,「勧告」まで受けてしまう場合には,敷地である土地についての固定資産税の優遇措置が適用されなくなるといった不利益が生じる点です。
つまり,これまでは,たとえ空き家でも地上に建物があれば,その土地の固定資産税が最大で6分の1まで優遇される特例がありました。
ところが,この法律により「特定空き家」と指定され,助言,指導を受けただけならいいのですが,「勧告」まで受けてしまうと,勧告の対象となった状態が改善されるまで,分かりやすく言えば土地上の建物がないものと同視され固定資産税の優遇措置が受けられなくなることになるのです。

 

空き家を所有している場合に,特定空き家と指定されるのを避けるためには,様々な方法が考えられますが,一つは他人に賃貸する方法もありますでしょうし,あるいは売却してしまう選択肢もあり得ます。
また最近では,空き家対策のために管理を行う専門の業者も存在しています。
どの方法にもメリット・デメリットがあり,選択はケースバイケースです。迷った場合は弁護士などにご相談を。

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「預金債権と遺産分割審判」

弁護士 沼尻隆一

 

預金債権が遺産分割審判の対象になるかどうかが争点となっている事件で,最高裁判所が「事件を大法廷に回付」したとの報道がありました。


「大法廷に回付」とは,従来の判例が変更される可能性があることを意味します。

 

従来の判例理論では,預金債権は相続開始と同時に当然に法定相続分に応じた分割債権となるため,共同相続人全員の同意がない限り原則として遺産分割審判の対象とはされない取扱がなされてきました。

 

そのため,例えば遺産の全てが預金(債権)であるような場合には,共同相続人全員の同意がない限り,言いかえれば,当事者に一人でも反対する人がいれば,遺産分割の審判申立をしても結果的に却下される可能性がありました。

 

また,預金債権とその他の財産が遺産の内容であっても,他の財産のみでは調整がつかないような場合,やはり一人でも反対する人がいれば,預金債権も含めた全体での調整が不可能となり(預金債権が調整要素の役割を果たすことが期待されるにもかかわらずそれができない),結果的にうまく解決するものも解決できないような事態が生じていたことは事実でした。

 

他方で,遺産分割を経ずして当然に分割債権となるといっても,銀行の実務では相続人全員の同意書や遺産分割協議書(それと同等の法的効力のある書類)がなければ単独では預金の払出しには応じてくれませんので,いくら「法律上当然に分割される」といっても絵にかいた餅,実現のためには民事訴訟を提起するなどする必要がありました。

 

このような様々な不都合を乗り越えるべく,最高裁判所大法廷がいかなる判断を示すのか,関心が持たれます。

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「判例紹介(夫婦同氏制に関する平成27年12月16日最高裁大法廷判決)」

弁護士 沼尻隆一

 

100日を超える再婚禁止期間の規定を違憲と判断した最高裁判決と同じ日に,「夫婦同氏制」(婚姻の際に夫又は妻の姓を称すると定める民法750条の規定)の合憲性等が争われた事件について,最高裁大法廷(15人の最高裁裁判官全員の合議体で裁判する)での判決がありました。

 

請求の趣旨が国家賠償法にもとづく損害賠償を求める事案であったため,損害賠償の請求そのものについては,山浦善樹裁判官のみが認め他は全員認められないという意見であったため,結論として,請求それ自体は山浦裁判官以外全員一致の意見で棄却されましたが,請求の前提となる「夫婦同氏制の合憲性」に関しては,15人中5人の裁判官が「違憲」と評価し,判断がわかれました。

 

夫婦同氏制の合憲性に関し,最高裁裁判官の間でも判断がわかれたポイントは,多数意見(夫婦同氏制の規定を合憲と判断したほう)が,もっぱら,「当該制度(夫婦同氏制)そのものの合理性」(一つの家族の呼称として対外的に公示し識別する機能などに合理性が認められる)に力点を置いて判断したのに対し,少数意見(違憲と判断したほう)は,当該制度の合理性ではなく,「他の制度を許さないこと」に合理性があるかのか否か,といった点を,判断の対象とした点にあると思われます。

 

すなわち,「違憲」と評価した木内道祥裁判官の意見によれば,当該規定が合憲であるためには,かかる規定が「夫婦同氏に例外を許さないことに合理性があるといえなければならない」ということになります。

 

そのうえで,「違憲」意見は,多数意見がいう「通称使用が許されることによって,事実上の不利益・不都合があったとしてもある程度緩和されうる」といった意見についても,同じく「違憲」と評価した岡部喜代子裁判官の意見によれば,「しかし,通称は便宜的なもので,使用の許否,許される範囲等が定まっているわけではなく,現在のところ公的な文書には使用できない場合があるという欠陥がある上,通称名と戸籍名との同一性という新たな問題を惹起することになる。」と指摘し,それに加え,そもそも通称使用という現象それ自体が,「婚姻によって変動した氏では当該個人の同一性の識別に支障があることを示す証左」であると鋭い指摘をしています。

 

以上の議論を踏まえて考えると,私見では「違憲」の判断が相当かと思われますが,いずれにしても今後,選択的夫婦別氏制の導入を含めた,立法的解決がはかられるための努力も必要かと思われます。

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「婚姻費用の算定に関する裁判例の紹介」

弁護士 沼尻隆一


ご夫婦が別居している場合の,婚姻費用の分担請求の事案において,未成年のお子さんがいる場合の婚姻費用が,家庭裁判所の審判で定められる場合,一般的には,いわゆる「標準的算定方式」といって,東京・大阪養育費等研究会という会が判例タイムズに発表した提言にもとづいた方法で算定されるのが一般的です。


実は,この方法は,未成年のお子さんが「公立学校」に在籍していることを前提にして,お子さんの生活費指数というのを定めているため,お子さんが,通常は公立学校よりも多額の学費等を要する「私立学校」に在籍している場合には,そのままあてはめることができませんでした。


そこで,そのような,お子さんが私立学校に在籍している場合に,いわゆる標準的算定方式をいかに修正して適用すべきかが,問題となります。


この点,平成26年8月27日になされた大阪高裁の決定(判例タイムズ最新刊〔1417号〕登載)は,婚姻費用の分担額の算定において,私立学校に通学するお子さんの現実の学費のうち,公立学校の標準的教育関係費を超過する部分(以下「超過部分」といいます。)については,夫婦の双方で各自2分の1ずつ負担すべきものと判断しました。


従来は,この「超過部分」については,ご夫婦それぞれの収入で按分する(双方の収入の較差・比率に応じて負担率を変える)方法がとられることが多かったのですが,そのような流れに一石を投じた裁判例と言えそうですので,ご紹介する次第です。

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「戦争の合法化を許してはならない」

弁護士 沼尻隆一


立花隆がこの映画のために一冊本を書いていることからもわかるように,フランシス・フォード・コッポラの監督作品である「地獄の黙示録」は極めて偉大な映画だ。

先日,この映画の「REDUX(特別完全版)・オリジナル版ボックスセット」DVDの附録の小冊子の中に,コッポラ監督自身の次のような文章を発見した。


「私は,いかなる芸術家であっても,戦争に関する映画を作る場合,必然として,反戦映画を作ってしまうと考えている。たいていの戦争映画は,反戦映画なのだ。しかし,私のこの映画は,反戦映画以上のもの-『反“嘘”映画』だと信じている。戦争とは,人々が傷付けられ,拷問にかけられ,障害者にさせられ,そして殺される事だ。それを文明はウソで塗り固め,一つのモラルとして提示する。それが,私にはおそろしい。そして,それが戦争の可能性を“永久”にしていることに,震えを感じるのだ。」(HERALD PICTURES「地獄の黙示録特別完全版・オリジナル版ボックスセット」附録小冊子より)


ベトナム戦争の戦場が舞台のこの映画の中で,2メートルの波が立つという海でただ「サーフィンをしたいために」付近の村をナパームで焼き払い住民たちを殲滅するといった仕業をいとも簡単に,かつ平然とやってのける「空の第1騎兵隊」指揮官のキルゴア中佐は,軍隊組織の中では(=文明の規範の中では),部下思いの優秀な指揮官であり,戦争の英雄とみなされている。

一方,軍規等を無視してジャングルの奥地で自分に盲従する現地民を率いて戦闘行為を繰り返すカーツ大佐は,軍上層部により,あらゆる行動が「不健全」(UNSOUND)だという烙印を押されたあげく,「殺人罪」で逮捕命令が出された。

非公式な指令としてカーツの「抹殺」を命じられたウィラード大尉は,内心「戦場で殺人罪?レース場でスピード違反を取り締まるか?」と半ば呆れながら思う。



コッポラ監督がいうように,戦争のモラル化とは,文明の究極の欺瞞だ。

そこでは,「より多く殺戮した者」が「英雄」となり,「虐殺」は「正当な」行為となる。「侵略」も,「自存自衛のため」やむを得ざる行為となり,「核武装」さえも「安全保障上」必要な行為となってしまう。「徴兵制」だってそうなれば「美徳」だ。


映画の中だけの話ではない。

「ウソで塗り固めた説明」を重ねて「戦争をモラル化(=法制化・合法化)」する,そんな欺瞞だけは,絶対に許してはならない。

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~ 『知と行動の巨人』 鶴見俊輔さん逝く ~

弁護士 沼尻隆一


鶴見俊輔さんが7月30日,93歳でお亡くなりになりました。


鶴見さんは,東京市長,満鉄総裁などを務めた後藤新平を祖父とし,政治家,官僚,作家でもあった鶴見祐輔を父として,大正11年に生まれ,旧制中学を退学となった後,家族と離れて米国に渡り,ほぼ独力で勉強してハーバード大に入学し,そこでプラグマティズム学派の影響を受け,日米開戦に伴い米国で収容所に入りましたが,捕虜交換のような形で日本に帰国し,日本軍から軍属(通訳)として徴用され東南アジアに派遣されます。
当時,軍から人を殺すよう命令された場合,自殺を考えていたそうです。


終戦後は,都留重人,丸山真男らを同人として「思想の科学」を創刊し,編集者として活躍のかたわら,大学でルソー研究等に従事していましたが,1960年,日米安保条約の強行採決がなされたことに抗議して,当時勤めていた東京工業大学(国立)の助教授を辞職しました。

前後して,東京都立大学の中国文学者竹内好さんも同じように,教授職を辞職しました。
いずれも

「このような日本政府の下で公務員として給料をもらっているわけにはいかない」

という強い思いからでした。


奇しくも今,「安全保障」というテーマに関し,同じような事態が国会で生じています。
安保条約の強行採決と引き換えに岸内閣は退陣しましたが,今の内閣は退陣のきざしさえ見えません。むしろ,事態はより深刻ではないでしょうか。

憲法学者の約98%が違憲・違憲の疑いがあると考えているにもかかわらず,私立大学の方は別として,今どきは誰も,辞職するような人はいらっしゃいません。
そういう筋の通し方は最早,はやらなくなったのかも知れません。


さて,その後も,鶴見さんは,大学紛争の際に同志社大学が機動隊の学内導入を決定したことに抗議して,同大の教授職を辞職したりしましたが,学究生活のかたわら「ベ平連」の活動などを通し,地に足のついた知的活動を続けました。

プラグマティズムの精神とはそういった,観念論や教条主義に堕さない実践的な知の試みでもあると思いますが,鶴見さんの活動はまさに,それを地で行った感があります。


ほかに鶴見さんは,大衆小説や漫画などサブカルチャーに対する造詣が深く,山上たつひこ氏の漫画「ガキデカ」などへの賞賛は有名です。
私も,対談かなにかで鶴見さんが,岩明均氏の漫画「寄生獣」を絶賛しているのを読んで,「さすがわかっておられる」と驚嘆したのを憶えています。


『知と行動の巨人』である鶴見俊輔さんの訃報に接し,謹んでお悔やみ申し上げます。

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最近の判例紹介(平成27年3月4日最高裁大法廷判決)

弁護士 沼尻隆一


交通事故や労災事故などの不法行為による被害を受けた場合に,それと同一の原因によって被害者(又はその相続人)が利益を受けた場合に,その利益の分を損害から控除することがあります。
これを「損益相殺(そんえきそうさい)」といい,典型的なのは,交通事故に起因して被害者等が受領した自賠責保険金などが,これに該当します。


労災事故により亡くなった被害者の遺族が,労災保険法にもとづく「遺族補償年金」の支給を受けた事案で,使用者への損害賠償請求権に対し,損益相殺はどのような形で認められるのか,という点について,新判断を示した最高裁判例がありました。


本判決は,このような場合,①損害賠償請求権全体ではなく,逸失利益等の消極損害(事故がなければ将来的に得られたであろう収入など)に限り,それとの間で,「損益相殺的な調整」を行うべきであるとし,なおかつ,②その調整は,不法行為の時(被害者の死亡時)にさかのぼって,損害賠償請求権の「元本」に対して為すべき(つまり,損益相殺で調整された部分については,遅延損害金が発生しない)とする内容の判断を示しました。


①の部分については,平成22年10月15日になされた最高裁判例等とも同趣旨のものであり,判例を変更したものではありませんが,②の部分については,遺族厚生年金の支給時において遅延損害金が発生している場合は,損害賠償請求権の元本ではなく,まず事故時から支給時までの「遅延損害金」に充当して損益相殺すべきである旨の趣旨を述べた平成16年12月20日の最高裁判例を,実質的に変更したものといえます。


このように,過去の最高裁判例を変更した判決だったため,最高裁判所判事全員がメンバーとなる大法廷での判決となっています。


交通事故の場合の人身傷害保険給付金と損害賠償請求権との関係など,各種給付と本来の損害賠償請求権との間で,どのような調整をなすべきかについては,難しい問題が多く,近時,これらの点に関する最高裁判例もいくつか出現しています。

本判例も,このような流れの一つとして位置づけられるものと思い,ご紹介する次第です。

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