大麻の使用(施用)が罪になります
弁護士 岡田宜智
はじめに
大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律の一部が令和6年12月12日から施行されました。
これに伴い、これまで処罰の対象になっていなかった大麻の使用が、今後は処罰されることになりました。
なお、大麻使用罪は、法律の文言では「施用」とされているので、「大麻施用罪」と表記するのが正確でしょう。
また、以下で見るとおり、今回の改正は、大麻取締法に大麻施用罪が新設されたわけではなく、大麻が「麻薬及び向精神薬取締法」(以下、「麻向法」といいます。)における「麻薬」として規定されたことによって、大麻の施用が罰則の対象となったというのがポイントです。
改正の趣旨
厚生労働省の発表しているところによれば、今回の改正は、「大麻草の医療や産業における適正な利用を図るとともに、その濫用による保健衛生上の危害の発生を防止するため、
①大麻草から製造された医薬品の施用等を可能とするための規定の整備
②大麻等の施用罪の適用等に係る規定の整備
③大麻草の栽培に関する規制の見直しに係る規定の整備等の措置を講ずる」とされています。
要するに、医療用大麻の有用性を認め、医療用大麻の施用を合法化する一方で、大麻の不正な施用については、他の規制薬物と同様に、「麻向法」における「麻薬」として禁止し、罰則(施用罪)を適用する、ということです。
また、大麻取締法は、主として大麻草の栽培規制に関する法律となります。
厚生労働省は、本改正の経緯について、
・薬物事犯の検挙人員のうち、大麻事犯の検挙人員が令和3年まで8年連続で増加し、令和4年も依然として高水準で推移している
・年齢別では、30歳未満が約7割となっており、若年層における大麻乱用が拡大している
・従来は、大麻について、他の規制薬物と異なり、その使用について禁止規定及び罰則が設けられておらず、大麻に使用罪がないことが使用へのハードルを下げているという調査結果が得られている
などとしています。
改正の概要
施用(使用)が罰則の対象となった
改正された麻薬及び向精神薬取締法の第2条1項は次のようになっています。
第二条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 麻薬 別表第一に掲げる物及び大麻をいう。
一の二 大麻 大麻草の栽培の規制に関する法律(昭和二十三年法律第百二十四号)第二条第二項に規定する大麻をいう。
このように条文上、麻向法における「麻薬」に大麻が含まれることとされました。
「大麻草の栽培の規制に関する法律」というのは、旧大麻取締法のことです。
したがって、大麻取締法で規制の対象となっていた大麻は、麻向法における「麻薬」として扱われることが明記されました。
そして、麻向法では、麻薬施用者(都道府県知事の免許を受けて、疾病の治療の目的で、業務上麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方箋を交付する者)でなければ、「麻薬」の施用が禁止されています(同法27条1項)。
大麻が麻向法の「麻薬」に含まれることになった結果、今後は、大麻の施用について、麻向法により罰則の対象となったということになります。
大麻草由来製品の施用について
また、大麻草由来製品(カンナビジオール(CBD)製品)の施用についても罰則の対象になりえます。
大麻の有害成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)は麻向法の「麻薬」の一つとして位置付けられていますが(同法別表一42号)、CBD自体は麻薬成分ではないため同法の規制対象ではありません。
もっとも、大麻草由来製品(CBD)製品)については、当該製品に微量に残留するTHCの残留限度値が設けられました(同法別表第一78号ロ、具体的な残留限度値については「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬、麻薬向精神薬原料等を指定する政令」2条参照)。
その結果、この値を超える量のTHCを含有するCBD製品については、「麻薬」として規制し、その施用を罰則の対象とすることになりました。
罰則
大麻施用罪の法定刑は、7年以下の懲役と規定されています(麻向法66条の2第1項)。
従来の大麻取締法で規制の対象となっていた、大麻の「所持」、「譲受」、「譲渡」(以下、「大麻所持等」といいます。)及び「輸出入」、「製造」(以下、「大麻輸出入等」といいます。)についても、今後は麻向法によって罰せられることになります。
これにより、大麻所持等について、従来は、法定刑が5年以下の懲役と定められていましたが、今後は7年以下の懲役に引き上げられる形となりました(麻向法66条)。
大麻輸出入等については、1年以上10年以下と定められています(麻向法65条)。
いずれの罪についても、営利目的で行った場合には、それぞれ罪が加重されます。
終わりに
大麻は、ゲートウェイドラッグといわれ、使用者がより効果の強い薬物の使用に移行していくおそれが高い薬物とされています。
覚醒剤取締法違反の入所受刑者のうち、約半数が大麻使用の経験を有しているともいわれています。
薬物の乱用に歯止めをかけるため、大麻の施用についても罰則の対象とするという方向性は仕方のない面があるでしょう。
大麻に限らず、違法薬物には手を出さない、違法性が疑われる製品には手を出さない、という意識を強く持つことが今後は一層重要になってくると思います。
以上