「特別受益」「寄与分」「遺留分」

法律ミニ講義 2016年11月 ~相続・遺産分割の基礎知識(2)

弁護士 柳沢里美/Satomi YANAGISAWA

はじめに

相続・遺産分割の中で皆さんに知っておいていただきたい基礎知識はたくさんありますが,今回は,相続・遺産分割の中で,相続人が複数いる場合に相続人間の「公平」のために相続分を修正する制度である「特別受益」「寄与分」と,全ての遺産を誰かに与えるという内容の遺言があったとしても,一定範囲の相続人に遺産を受ける権利を認めた「遺留分」の制度に絞ってお話をします。

第1 特別受益

1. 特別受益の事例

事例を挙げます。

<事例1>

3か月間に父が亡くなりました。 母は3年前に亡くなり,私には姉と兄がいます。 父の遺産としては,自宅の不動産(建物とその敷地)と預貯金があります。 不動産の価値は3000万円,預貯金は1000万円です。 先日,姉が父の遺産を兄弟3人で平等に3分の1ずつ分けようと言ってきました。姉は結婚するときに父から200万円の結婚資金をもらっています。 兄は父から事業資金として1800万円を援助してもらっています。 私は父から生前何もしてもらっていません。 私は父の遺産を3分の1しかもらえないのでしょうか。

2. 特別受益とは?

特別受益とは,共同相続人の中に被相続人から遺贈 や遺産の前渡しとなるような多額の生前贈与(特別受益)を受けた相続人(特別受益者)がいる場合,相続人間の公平のため,特別受益分を相続時の遺産に加えて調整する制度です。 特別受益となる生前贈与は,「婚姻,養子縁組のため,または生計の資本として贈与されたもの」とされています。 では,次のようなものは特別受益になるでしょうか。

(1)結婚のときの贈与 多額の持参や支度金は特別受益になると考えられます。 これに対して,挙式費用や新婚旅行費,結婚指輪の購入代金などは金額にもよりますが,生計の資本として贈与されたものとはいえないため特別受益には当たらないと考えられます。

(2)住宅資金の援助

(3)事業資金の援助 いずれも特別受益になると考えられます。

(4)高等教育(大学など)の学費 被相続人の生前の経済状況や社会的地位,他の共同相続人が受けた教育の程度などを考慮して,特別受益に当たるかどうかを判断します。

(5)生命保険金 原則は特別受益とはなりません。 しかし,遺産全体からみて保険金を受け取る相続人と受け取らない相続人との間の不公平が見逃すことができないほど大きいような特別な事情がある場合は特別受益に準じて扱われることがあります。

(6)死亡退職金 就業規則などにより,遺族の生活保障のために支払われるものであることが明らかな場合には,特別受益には当たりません。

(7)遺族年金 遺族の生活保障のために支払われるものは特別受益に当たりません。

(8)被相続人の土地や建物の無償使用 土地の無償使用の場合は,使用貸借権に相当する額(更地価額の1~3割)が特別受益となることがあります。 この場合は賃料相当額が特別受益となるわけではありません。 建物の無償使用の場合は,特別受益とならないと考えられます。

(9)貸付金・借金の肩代わり 貸付金は贈与ではないので特別受益には当たりません。 借金の肩代わり自体は特別受益にはなりませんが,その金額が遺産の前渡しといえるほど高額で,被相続人が求償権を放棄したような場合には特別受益に当たることがあります。

3. 特別受益の計算

特別受益がある場合,相続分の計算は次のようにします。

  • 相続時の遺産に特別受益分を加算する(持戻し)=みなし相続財産
  • みなし相続財産から相続分額を計算する
  • 特別受益者は相続分額から特別受益分を差し引く
  • 具体的相続分率に基づいて各相続人の取得額を計算する

持戻しの対象となる財産の評価は相続開始時が基準となります。 特別受益と認められる場合でも,被相続人が遺贈や生前贈与を持ち戻す必要がないという意思表示をしていたと認められる場合は持戻さないことがあります。 事例1の場合,姉は200万円,兄は1800万円の特別受益を受けているといえますので,遺産に姉と兄の特別受益を加えた6000万円がみなし相続財産となり,これに対する法定相続分の2000万円が私の取り分となりますが,姉と兄はそれぞれが受けた特別受益分が差し引かれます。

(10)小遣い・生活費 扶養の範囲内であれば特別受益には当たりません。

(11)入学祝・新築祝い 通常のお祝い程度であれば特別受益には当たりません。

第2 寄与分

1. 寄与分の事例

事例を3つ挙げます。 相続人と遺産はいずれも先ほど挙げた事例と同じです。

<事例2-1>

父は事業を営んでいましたが,私は父の事業に従事して父を助けました。 姉は嫁ぎ,兄はサラリーマンとして独立したので,二人とも父の事業には全く関わっていませんでした。 私は姉と兄より父の遺産を多くもらうことはできないのでしょうか。

<事例2-2>

私は父名義の自宅の土地と建物のローンの支払いを立替えていました。 また自宅の修繕費も支払いました。 姉と兄は父に対して経済的な援助は何もしていません。 私は姉と兄より父の遺産を多くもらうことはできないのでしょうか。

<事例2-3>

父は亡くなる前,認知症が悪化し介護が必要でしたので,私が一人で父の介護をしていました。 姉と兄は父の介護は何もしていません。 私は一人で大変な思いをして父の介護をしていたので,何もしなかった姉と兄より父の遺産を多くもらうことはできないのでしょうか。

2. 寄与分とは?

寄与分とは,被相続人の財産形成に特別な寄与をした相続人がいる場合,相続人間の公平のため,寄与した相続人の相続分に寄与分を加算する制度です。 では,どのような場合に寄与分は認められるのでしょうか。 寄与分は,「被相続人の家業に従事した場合」「被相続人に財産上の給付をした場合」「被相続人の療養看護をした場合」に認められることがあります。 このような場合でさらに次の要件を備えていなければなりません。

(1)寄与したのが相続開始前までの行為であること
被相続人が亡くなった後の葬儀費用を負担したり,遺産の管理を行っていたりしても,寄与分の対象となる行為には当たりません。

(2)寄与分が認められるだけの要件を満たしていること
扶養義務の範囲を超える特別な貢献であること 被相続人から対価をもらっていないこと(無償性) 寄与行為が一定の期間あること(継続性) 片手間ではなく大きな負担を要するものであること(専従性) 寄与行為によって被相続人の財産が維持され又は増加したこと(財産の維持又は増加との因果関係)

(3)寄与行為に関する客観的な資料があること
例えば,家業従事型の場合には経営状況の分かる資料(確定申告書など)や給与の支払い状況の分かる資料(給与台帳,給与明細書など),財産給付型の場合には給付した財産の内容に関する資料(不動産登記事項証明書,被相続人名義の通帳,不動産売買契約書など)や負担した費用に関する資料(納税通知書,領収書)や金銭を支出したことが分かる資料(相続人の通帳,振込明細など),療養看護型の場合には被相続人の症状・要介護状況に関する資料(要介護認定通知書,要介護の認定資料,診断書など)や療養看護に関する資料(介護サービス利用票,介護サービスのケアプラン,施設利用明細書など)や入院期間が分かる資料(医療機関の明細書など)が客観的な資料として考えられます。

3. 寄与分の決め方

次に,寄与分の決め方ですが,まずは共同相続人の間で寄与分の割合や金額について話し合って決めます。 話し合いで決まらないときは,家庭裁判所に遺産分割の調停(審判)を申立てるとともに寄与分の調停(審判)も申し立て,最終的には審判によって決まります。 寄与分が認められる場合,各相続人の相続分は次のように計算します。

  • 相続時の遺産から寄与分を差し引く=みなし相続財産
  • みなし相続財産から相続分額を計算する
  • 寄与者の相続分額に寄与分を加算する

なお,寄与分が認められるのは相続人のみです。 長男が相続人の場合,その妻が被相続人の療養看護をしていたとしても,その妻に寄与分は認められません。 もっとも,妻の行為が相続人である長男の行為と同視できるような場合は,長男に寄与分が認められることがあります。

事例2-1,事例2-2,事例2-3の場合は,いずれも特別な寄与行為により被相続人の財産の増加や維持が客観的な資料によって認められれば,寄与分と認められるでしょう。 合意あるいは審判によって私の寄与分が700万円に決まった場合,遺産からこれを差し引いた3300万円がみなし財産となり,これに対する法定相続分に寄与分を加えた1800万円が私の取り分となります。

第3 遺留分

1. 遺留分の事例

事例を2つ挙げます。

<事例3-1>

先日,父が亡くなりました。 母は何年も前に亡くなり,私には姉と兄がいます。 父は生前,兄に対して事業資金として500万円を援助しました。 父の遺産は1000万円の価値がある不動産(建物とその敷地)だけです。 父は公正証書遺言を作っていたのですが,その内容は不動産を姉に相続させるというものでした。 私は父の遺産を全くもらうことはできないのでしょうか。

<事例3-2>

先日,夫が亡くなりました。 夫との間に息子が一人います。 夫は亡くなる6か月前,通い詰めていたスナックのママに500万円を援助していました。 夫の遺産は預貯金500万円と9000万円の価値があるマンションです。 夫は,私と息子には預貯金を半分ずつ相続させ,マンションは私が全く知らない女性に遺贈するという内容の公正証書遺言を作っていました。 私と息子は預貯金だけしかもらえないのでしょうか。

2. 遺留分とは?

遺留分とは,配偶者・子・直系尊属に認められた最低限度の遺産を受ける権利です。 兄弟姉妹には遺留分はありません。 相続人が直系尊属のみの場合は1/3,それ以外の場合(配偶者・子)の場合は1/2の遺留分が認められます。 遺留分を受け取る権利のある相続人が複数いる場合は,その遺留分を法定相続分で分け合います。 遺留分算定の基礎となる財産は,相続時の遺産に一定の条件の贈与額を加算してそこから債務がある場合はそれを差し引いたものとなります。 次のものが加算される一定の条件の贈与になります。

  • 相続開始前の1年間にした贈与
  • 1年以上前の贈与でも被相続人と贈与を受ける者が遺留分を侵害することを承知のうえで行った贈与
  • 相続人が受けた特別受益

侵害された遺留分を取り戻すためには,遺留分の侵害を知った時から1年以内,または相続開始から10年以内に,遺留分を侵害する遺贈や贈与を受けた者に対して遺留分減殺請求の意思表示をします。 侵害された遺留分の返還について,まずは話し合い,話し合いでまとまらなければ家庭裁判所に調停を申し立てます。 調停でも合意に至らない場合は,地方裁判所に訴訟を提起し,最終的には判決がなされます。

3. 遺留分の計算

遺留分を侵害する遺贈や贈与が複数ある場合は,(1)遺贈→(2)新しい贈与 から順番に減殺していき,侵害された遺留分の限度で取り戻すことができます。 遺留分を侵害する遺贈や贈与を受けた者は侵害した遺留分につき遺贈や贈与を受けたその物を返さなければなりませんが,現物の返還を免れるために侵害した遺留分につき金銭を支払う価額弁償の方法によることもできます。

なお,遺留分は放棄することもできます。 遺留分の放棄をしても他の相続人の遺留分は変わりません。 相続開始後に遺留分を放棄する場合は,遺留分の侵害があったとしても期限以内に遺留分減殺の請求を行わなければ放棄したことになります。 相続開始前(被相続人の生前)に放棄する場合は,家庭裁判所の許可が必要となります。

事例3-1の場合,私の遺留分割合は1/6で,遺留分算定の基礎となる財産は,遺産に兄の特別受益を加えた1500万円ですので,私の遺留分は250万円となり,姉に対して,遺留分減殺請求をすることになります。

事例3-2の場合,遺留分割合は私と息子で1/2(それぞれ1/4)で,遺留分算定の基礎となる財産は,遺産にスナックのママへの贈与を加えた1億円ですので,私と息子の遺留分は5000万円となり,遺贈を受けた女性に対して遺留分減殺請求をすることになります。

以上

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