卒園式、看護休暇取れるってよ
~育児・介護休業法改正(2025年4月1日施行)~
弁護士 守重 典子
タイトルは、朝井リョウさんの有名なデビュー作にもじって・・・。
朝井作品は実は1作しか読んだことないですが、「正欲」読んで以降ドはまりです。
・・・さて、今回は、育児・介護休業法の改正の内、2025年4月1日より施行される改正点をご紹介します。
改正点① 所定外労働の制限(残業免除)の対象者の拡大
*改正の概要
改正前 | 改正後 |
3歳未満の子を養育する労働者 | 小学校就学前の子を養育する労働者 |
*改正の内容
これまで、残業免除の請求ができるのは、3歳未満の子を養育する労働者となっていましたが、改正により小学校就学前の子を養育する労働者も残業免除の請求者となります。
延長保育を利用したとしても、残業があるとお迎えの時間に間に合わない・・・という事態を考慮した改正と評価できると思います。
改正点② 子の看護休暇の見直し
*改正の概要
改正前 | 改正後 | |
名称 | 看護休暇 | 看護等休暇 |
対象となる子 | 小学校就学の始期に達するまで | 小学校3年生終了まで |
取得事由 | 病気・けが | 病気・けが |
予防接種・健康診断 | ||
予防接種・健康診断 | 感染症に伴う学級閉鎖 | |
入園式(入学式)・卒園式 |
*改正の内容
まず、名称が看護「等」休暇となっているように、これまでの子どもの病気や予防接種の場合に加え、「感染症に伴う学級閉鎖」「入園式(入学式)・卒園式」も取得事由に追加されました。
「感染症に伴う学級閉鎖」はコロナ禍で保育園や学校が休園・休校になったときに、多くの働くパパママが仕事との調整に奔走せざるを得なくなったことは、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。
また、入園式・卒園式といった、子どもの晴れの日への出席のために休暇制度を利用できるようになります。
さらに、休暇を請求できる労働者は、これまで「小学校就学の始期に達するまで」の子を養育する労働者でしたが、「小学校3年生終了までの子」を養育する労働者まで、その範囲が拡大されました。
所謂「小1の壁」という、子どもが小学校に上がったときに仕事と子育ての両立が難しくなる実態に考慮した改正と評価できるのではないでしょうか。
なお、取得可能日数は現行日数(1年間に5日、子が2人以上の場合は10日)に変更ありません。
改正点③ テレワーク制度の拡充
*改正の概要
改正前 | 改正後 |
短時間勤務の代替措置として・・・ | |
育児休業に関する制度に準ずる措置 | 育児休業に関する制度に準ずる措置 |
始業時刻の変更等 | 始業時刻の変更等 |
テレワーク |
改正後(新設) |
3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるよう措置を講じることが努力義務化 |
*改正の内容
現行法では、3歳未満の子を養育する労働者について、事業主は短時間勤務措置を講じることが定められ、短時間勤務措置を講じない場合には、①育児休業に関する制度に準ずる措置、または②始業時刻変更等の措置を講ずることとなっています。
改正により、この代替措置として③テレワーク制度の利用が追加されました。
また、3歳未満の子を養育する労働者が、テレワークを利用できるように必要な措置を講じることが事業主の努力義務として定められます。
コロナ禍により、以前よりテレワークも身近なものとなったことを受け、テレワーク制度の利用機会が拡大したものと言えます。
改正点④ 育児休業取得状況の公表義務の対象範囲の拡大
*改正の概要
改正前 | 改正後 |
従業員数1000人超の企業 | 従業員数300人超の企業 |
*改正の内容
育児休業の取得状況の公表(年に1回)を義務化されていたのは、これまで常時雇用する労働者の数が1000人を超える事業主とされていましたが、改正により300人を超える労働者を常時雇用する事業主について、公表義務が課せられます。
育児休業の取得状況がどのようになっているかが、就職を決めるうえでの重要な要素となっていることの表れであり、事業主側も意識すべき要素となっていることが改めてうかがえます。
改正点⑤ 介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
*改正の概要
改正前 | 改正後 |
除外できる労働者として・・・ | |
週の所定労働日数が2日以下 | 週の所定労働日数が2日以下 |
継続雇用期間6ヶ月未満 |
*改正の内容
これまでは、①週の所定労働日数が2日以下、②継続雇用期間6個月未満のいずれかに該当する労働者は、労使協定により介護休暇の取得について除外することができましたが、今回の改正により、②の要件は撤廃されます。
継続雇用期間に関わらず、介護休暇を取得できるとすることで、労働者にとって、より介護休暇を取得しやすくすることを目的としています。
改正点⑥ 介護離職防止のための雇用環境整備
事業主に以下の①~④いずれかの措置を講じる義務を新設 |
① 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施 |
② 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備 |
③ 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供 |
④ 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知 |
*改正の内容
介護休業や介護両立支援制度等に関する研修実施や相談体制の整備など雇用環境を整備する義務が事業主に義務化されました。
せっかく制度があっても、そんな制度があること自体知らない、どうやって制度を利用したらいいか分からないという状態になっていれば、まさに「絵に描いた餅」。
介護と仕事の両立が難しいことで離職に至ってしまう事態を防ぐべく、利用できる制度は利用してもらうことが改正の狙いと考えられます。
改正点⑦ 介護休業制度の周知や情報提供等
介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認等をおこなう義務を新設 | |
周知事項 | ① 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等 |
② 介護休業・介護両立支援制度等の申出先 | |
③ 解雇休業給付金に関すること |
介護に直面する前の早い段階において、介護休業制度等に関する情報提供義務を新設 | |
情報提供期間 |
① 労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間) |
② 労働者が40歳に達した日の翌日(誕生日)から1年間 | |
情報提供事項 | ① 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等 |
② 介護休業・介護両立支援制度等の申出先 | |
③ 介護休業給付金に関すること |
*改正の内容
介護に直面した労働者が申出をした場合に、介護休業制度や介護両立支援制度などに関する情報を知らせ、介護休業制度の利用申出についての労働者の意向を確認する措置を講じる義務が新設されました。
また、介護に直面した労働者のほか、介護に直面する前の段階として、労働者が40歳に達する日の属する年度または40歳に達した日の翌日から1年間の期間において、介護休業制度や介護両立支援制度などに関する情報を知らせることが義務化されました。
いずれも仕事と介護の両立のための制度が活用されないまま介護離職となってしまう事態を防ぐため、介護休業制度等を労働者が知る環境を作るとともに、介護休業制度を利用しやすい環境を整備することが改正の背景にあります。
なお、周知や意向確認の方法は、面談・書面交付のほか、労働者が希望すればFAX・メールによる方法でも可能です。
改正点⑧ テレワーク導入の努力義務
改正後(新設) |
要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講じることが努力義務化 |
*改正の内容
介護休業中の労働者について、テレワークによる勤務を労働者が選択できるような措置を講じることが事業主の努力義務となります。
改正点③で述べたとおり、テレワーク勤務の利用が以前より身近になったことが背景にあると考えられます。
さいごに
以上のとおり、育児や介護をしながら働く労働者にとって、育児・介護との両立や、育児・介護による離職を防止する改正がされますので、対象となる労働者の方は、自身が請求できる権利を理解しておくことが重要です。
同時に、事業主の方にとっては上記改正に伴い、就業規則の改正が必要となります。
また、各制度が「絵に描いた餅」とならぬよう、各制度を利用し易い環境づくりが必要と考えられます。
※出典:厚生労働省「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」