住所氏名変更登記の義務化とスマート変更登記
弁護士 金田 恒平
住所氏名変更登記の義務化
近年、①不動産の相続登記がされない、②不動産登記記録上の所有権登記名義人(所有者)の住所や氏名が変更されても住所変更登記がされない、などにより当該不動産の所有者やその所在を特定することができない、いわゆる「所有者不明土地」が増加しており、公共事業の妨げや、廃棄物の不法投棄などといった社会問題を引き起こす一因となっています。
過去のコラムでも触れましたが、不動産の相続登記については、2024年4月1日から義務化されています。
具体的には、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請が必要であり、正当な理由なく期限内に相続登記を怠ったときは、10万円以下の過料が科される可能性があります。
そして、住所変更登記についても、不動産登記法が改正され、2026年4月1日から、不動産の所有者は住所や氏名・名称を変更した日から2年以内に変更登記をしなければならなくなります。
正当な理由なく期限内に変更登記申請を怠ったときは、5万円以下の過料が科される可能性があります。
なお、施行日(2026年4月1日)の前に住所や氏名等を変更した場合には、2028年3月31日までに変更登記をしなければなりません。
スマート変更登記
このような住所氏名変更登記の義務化に先立ち、2025年4月21日から、事前に法務局に対し所定の手続きをしておけば、将来住所氏名の変更があっても、法務局でその事実を確認して、職権で登記をしてくれる「スマート変更登記」制度が導入されました。
この手続きをしておけば、住所氏名の変更があるたびにご自身で登記申請をしなくても、義務違反に問われることがなくなります。
以下、「スマート変更登記」を利用する際の手続きについてご説明します。
個人の場合
法務局に対し、「検索用情報の申出」をすることで、スマート変更登記を利用することができます。
「検索用情報の申出」がされた後に住所や氏名の変更があった場合には、法務局でその事実を確認して、本人の了解を得た上で、法務局が職権で変更登記をします。
「検索用情報の申出」がされた後の職権による変更登記までの流れは次のとおりです。
(ア) 法務局が定期的に住基ネットに照会して住所等の変更の有無を確認する。
(イ) 住所等に変更があった方に対し、変更登記をしてよいかを確認するメールを送信する。
(ウ) 変更登記をしてよい旨の回答があった方について、順次、変更登記をする。
なお、2025年4月21日以前に所有権登記名義人となっている場合の申出方法は、法務省の「かんたん登記申請」のサイトから、「検索用情報の申出」の手続を選択し、所有者の生年月日、メールアドレス、不動産の地番等の情報を入力することで、ウェブブラウザ上で当該申出をすることができます。
また、2025年4月21日以降に所有権登記名義人となる場合は、登記申請書に、新たな所有者(登記権利者)の住所氏名に加え、氏名のフリガナ、生年月日、メールアドレス等を併記して申請することで「検索用情報の申出」をすることができます。
法人の場合
法人も、「会社法人等番号の登記」をすれば、スマート変更登記が利用できます。
「会社法人等番号の登記」がされた後に本店や名称の変更があった場合には、法務局でその事実を確認して職権で変更登記をします。
「会社法人等番号の登記」がされた後の職権による変更登記までの流れは以下のとおりです。
(ア) 商業・法人登記上で住所等に変更があった都度、不動産登記のシステムに通知がなされる。
(イ) 上記通知を受けて、順次、不動産登記上の住所等の変更登記をする。
なお、2024年4月1日以前に所有権登記名義人となっている場合には、オンラインまたは書面により「会社法人等番号の申出」をすることで、会社法人等番号が登記されます。
また、2024年4月1日以降に所有権登記名義人となる場合は、登記申請書に、新たな所有者(登記権利者)の本店名称に加え、会社法人等番号を併記して申請することで会社法人等番号が登記されます。
住所氏名変更登記を申請する際は、一般的に、不動産1個につき1,000円の登録免許税を法務局に納付する必要があるほか、司法書士等の専門家に登記申請手続きの代理を依頼する場合にはその報酬もかかりますが、「スマート変更登記」によれば、このような費用はかかりませんので、大変経済的です。
このようなメリットの多い「スマート変更登記」制度の利用をお勧めします。
以上