2019年4月15日

働き方改革関連法施行!

弁護士 守重典子

 

 働き方改革関連法(正式名称:「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」))が平成30年6月29日成立し,平成31年4月1日から順次施行されています。
 この法律は,労働者が多様な働き方を選択できる社会の実現をその制度趣旨とし,長時間労働の是正や雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を改正の軸としています。

 同法律の施行に伴い,労働者の働き方に変化が生じるともに,使用者側にも法改正に伴う対応が求められることとなります。
 そこで今回は,平成31年4月1日から順次施行されている「時間外労働の上限規制」と「年次有給休暇の5日間の確実取得」について,改正の内容と,使用者側に求められる対応について解説します。

時間外労働の上限規制(2019年4月~施行)

労働基準法で定められた労働時間

 労働基準法では,原則として,1日8時間・1週40時間を超えて労働させてはならないと定めており(労基法32条),これを「法定労働時間」といいます。

 ※なお,法定労働時間と似たもので,「所定労働時間」というものがありますが,これは各企業において定めた,始業から終業までの時間から休憩時間を差し引いた時間のことをいいます。所定労働時間は法定労働時間を超える部分は無効となります(労基法13条)。
  所定労働時間を超えて勤務しても,それが法定労働時間の範囲内であれば,割増賃金を支払う義務はないことになります。

時間外労働させる場合の要件

 また,法定労働時間を超えて労働させる場合には,以下の2点が必要となります。

 ①時間外労働に関する協定(サブロク協定)を締結すること

 ②サブロク協定を労働基準監督署へ届け出ること

そして,実際に時間外労働をさせた場合には,時間外の割増賃金を支払う必要があります。

時間外労働について,これまでの上限規制は?

 サブロク協定で定める時間外労働の上限については,これまで厚生労働大臣の告示により,1ヵ月45時間を超えないもの,1年360時間を超えないものとする旨の基準が定められていました。

 しかし,これはあくまで告示による上限であったため,罰則が定められているわけではありませんでした。また,臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合の,「特別条項付き協定」を結ぶと,告示で定められた限度時間を超えて働かせることができてしまい,実質的に時間外労働の上限が無しになってしまうという問題点がありました。

法改正による労働時間の上限規制

 上記の問題点を踏まえ,今回の改正によって,時間外労働の上限を原則として,月45時間・年360時間とする規定が設けられました。
 また,通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い,臨時的に原則の上限時間を超えて労働させる必要がある場合には,特別条項付き協定によって,原則の時間外労働の上限を超えて労働させることができますが,その場合であっても,以下の4点を守る必要があります。

  •  時間外労働(休日労働を除く)が年720時間以内であること
  •  時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満であること
  •  時間外労働と休日労働の合計について,「2ヵ月平均」「3ヵ月平均」「4ヵ月平均」「5ヵ月平均」「6ヵ月平均」が全て1月あたり80時間以内であること
  •  時間外労働が月45時間を超えることができるのは,年6ヵ月までが限度

 これらの上限規制に違反した場合には,6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰則が科されるおそれもあります。

 ※なお,以下の基準を満たす中小企業に対しては,上限規制の適用が1年間猶予され,2020年4月1日からの施行となります。

業種 資本金の額又は出資の総額 または 常時使用する労働者数
  小売業 5,000万円以下 50人以下
  サービス業 5,000万円以下 100人以下
  卸売業 1億円以下 100人以下
  その他
(製造業,建設業,運輸業等)
3億円以下 300人以下

使用者に求められる対応は?

 法改正による上限規制に伴い,使用者には以下の対応が求められます。

上限規制に適応した36協定の締結・届出

 従来の36協定では,「1日」「1日を超え3ヵ月以内の一定期間」「1年間」のそれぞれについて時間外労働の上限を定めることが要請されていました。

 今回の法改正により,「1ヵ月」「1年」の時間外労働の上限が定められたので,「1日」「1ヵ月」「1年」のそれぞれの時間外労働の限度を協定で定めなければなりません。
 また,特別条項付協定の場合,時間外労働と休日労働の合計が「月100時間未満」であること,「2~6ヵ月平均80時間以内」であることについても協定する必要があります。

✔労働時間管理

 上記で見たとおり,今回の法改正により,労働者の時間外労働時間について,月45時間以内・年間360時間以内となっているかどうか,特別条項付き協定を届け出た場合には,1ヵ月単月だけではなく,時間外労働が月45時間を超える回数が年6回以内かどうか,2~6ヵ月の時間外労働と休日労働の合計時間にの平均が80時間以内にとどまっているかどうか等もチェックする必要があり,前提として,労働者の労働時間管理がこれまで以上に必要となると言えるでしょう。

年5日の年次有給休暇の時季指定付与義務(2019年4月~施行)

年次有給休暇の発生要件

 年次有給休暇が発生するには,原則として以下の要件を満たす必要があります。

 ①雇い入れの日から6ヵ月継続勤務していること

 ②全労働日の8割以上出勤していること

 上記の要件を満たした場合,原則として10日間の年休が生じ,その後6ヵ月経過ごとに付与日数が以下のとおり加算されていきます。

継続勤務年数 6ヵ月 1年6ヵ月 2年6ヵ月 3年6ヵ月 4年6ヵ月 5年6ヵ月 6年6か月以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

※ パートタイム労働者等,所定労働日数が少ない労働者については,上記の表とは別に,所定労働日数に応じて年次有給休暇の日数が比例付与されます。

法改正による年5日の時季指定付与義務

 上記のように付与される有給休暇ですが,「有給を取得することにためらいを感じる」「雰囲気的に取得しづらい」といった理由から,平成29年度の年次有給休暇の取得率は51.1%となっています(厚生労働省「就労条件総合調査」)。しかし,年次有給休暇は,労働者の精神的・肉体的疲労の解消に資するものであり,労働者のモチベーションアップにつながり,ひいては労働者の定着率の向上や業務効率化にもつながるものであり,使用者側にもメリットのある制度と言えます。

 年次有給休暇の取得率がまだ低いという現状に照らし,法改正により,使用者は年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して,年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について,時季を指定して,年次有給休暇を取得させる必要があります。

 これに違反した場合には,30万円以下の罰金が科せられるおそれがあります。

時季指定義務が不要な場合

 既に労働者が5日以上の年次有給休暇を請求,取得している場合には,使用者から年休の時季指定をすることはできません。本来,年次有給休暇が労働者が自由に取得すべきものであるから,労働者からの請求によって年休が取得されている場合には,使用者から時季指定する必要はないこととなります。

 また,後述する年休の計画的付与により5日以上の年次有給休暇が定められている場合にも,事業主から年休の時期指定をすることは不要です。

使用者に求められる対応は?

就業規則への規定

 休暇に関する事項は,就業規則の絶対的必要記載事項となっているため(労基法89条1項1号),時季指定の対象となる労働者の範囲と,時季指定の方法について就業規則への規定が必要となります。
 就業規則に規定していない場合,30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。

時季指定義務の対象者の把握

 時季指定付与義務の対象となるのは,年次有給休暇が10日以上付与される労働者です。
 そのため,有給休暇の対象となる労働者を把握することが大前提となるでしょう。
 特に,パートタイム労働者等,所定労働日数が少ない労働者については,継続勤務年数が同じでも,原則の付与日数とは日数が異なるため,付与日数を確認し,管理する必要があります。

年次有給休暇管理簿の作成

 使用者は,時季・日数・基準日を労働者ごとに明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)を作成するとともに,3年間保存する必要があります。

年次有給休暇取得計画表の活用

 年次有給休暇の取得予定があらかじめ分かっていれば,使用者としても時季指定の調整がしやすいですし,労働者としても気兼ねなく年休を取得するこができ,双方にメリットがあると言えます。
 そのため,例えばある期間を区切って,年次有給休暇の取得計画表を作成し,取得予定の計画を立てることが年休の確実かつ取得しやすさにつながると言えるでしょう。

計画的付与制度の活用

 計画的付与とは,有給休暇のうち5日を超える部分について,あらかじめ労使協定で定めた日に有給休暇を与えることができるとする制度です。

 計画的付与制度を利用するには,以下の2つの要件を満たす必要があります。

 ①就業規則に計画的付与制度によって年次有給休暇の指定がなされることを規定すること

 ②労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で,労使協定を締結すること
 (※労働基準監督署への届出は不要です)

 計画的付与制度の活用により,会社の業態に応じた付与方式(事業場全体を一斉に休みにした方が効率的な場合には全従業員に同一の日に年休を付与。一斉に休みを取ることが難しい場合は,班・グループごとあるいは個人別に年休を付与)によって,あらかじめ指定した時季に年次有給休暇を取得させることが可能となります。

さいごに

 今回ご紹介しました「労働時間の上限規制」「年5日の時季指定付与義務」の施行により,使用者に求められる対応は多く,かつ迅速な対応が必要となります。

 また,2020年4月1日からは正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の禁止を趣旨とした法律が施行されることから,こちらについても施行を見据えた対応が求められることとなります。

 改正法の内容はもちろんですが,法改正への対応をしっかりおこなっておくことは,労働問題の予防にも資するものであり,重要なものと言えます。
 法改正に伴う就業規則やサブロク協定の再整備や,労働時間管理,年次有給休暇管理等について,ご不安な点があれば,ぜひお気軽にご相談ください。

 

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