2019年6月28日

強制執行による債権回収

弁護士 柳沢里美

会社も事業者も取引を行う中で,様々な契約により「債権」が発生します。
売買契約であれば取引先に対する売掛金債権,請負契約であれば注文者に対する報酬金支払請求権などです。
これら債権は,実際に債務者から回収をしなければ意味がありません。
債権回収には,次のような方法があります。

 ◆任意交渉
 ◆支払督促
 ◆民事調停
 ◆訴訟
 ◆強制執行 など

今回は,債務者が任意に支払をせず,裁判で判決が出たにもかかわらず支払わないような場合の最終手段である「強制執行」についてお話します。

強制執行に必要な債務名義とは

裁判で勝訴してこちらの請求を認める判決が出たにもかかわらず,債務者が任意に支払わない場合,裁判所に改めて申立てを行い,債務者の財産から強制的に債権を回収する方法が強制執行です。

強制執行を行うためには,「債務名義」が必要です。
債務名義は,債権の存在,範囲,債権者,債務者を表示した公の文書のことで,例えば,確定判決(「100万円を支払え」などと命じている判決で,上級の裁判所で取り消される余地のなくなった判決のことです。)や仮執行宣言付支払督促(執行力が付いた支払督促のことです。),和解調書調停調書などがあります。

裁判手続を経ていなくとも,金銭の支払に関する債権については,債務者が強制執行されても異議を述べないという文言(執行認諾文言)が入った公正証書も債務名義となります(執行証書)

 強制執行の種類

金銭債権の強制執行の種類は,大きく分けて,①不動産執行②動産執行③債権執行があります。

◆不動産執行

不動産執行は,債務者名義の不動産に対して強制競売の申立てを行い,裁判所がこの不動産を売却し,その売却代金を債務者の債務の弁済に充てる執行手続です。

不動産の所有は登記上明らかなので,債務者が財産を隠すことは困難ですし,不動産の財産価値が高ければ,十分な回収が見込めます。

しかし,債務者の所有不動産にすでに担保権が設定されている場合もあります。
その場合は,競売を申立てても,担保権者が優先的に弁済を受けることになるため,一般の債権者は債権を回収できない可能性があります。
競売の申立てを行っても,余剰が見込めない場合は裁判所によって取り消されることがあります。

競売を申し立てる際には,裁判所に予納金を納めなければならないので,費用がかかります。
せっかく競売の申立てを行っても,債権を回収できず,結果的に手続費用の方が高くなってしまう場合もあります。
このような二次損失が生じないように,事前に債務者の財産をしっかりと調査し,回収の見込みを慎重に検討する必要があります。

なお,不動産については,売却せずに裁判所から選任された管理人が,債務者の不動産を管理し,そこから発生する賃料などの収益を弁済に充てる強制管理の方法もあります。

◆動産執行

動産執行は,裁判所の執行官が債務者の占有する動産を差押え,その売却代金を債務者の債務の弁済に充てる執行手続です。
動産には,現金や貴金属,什器備品,店舗内の商品のほか,手形や小切手などの有価証券も含まれます。

動産執行の場合は,比較的費用も低く,不動産執行より簡単に申立てを行うことができます。

動産執行は,執行官が,債務者の店舗や事務所に突然やってくるため,債務者に与える心理的効果は大きいと言えます。

しかし,動産の場合は,不動産とは異なり,登記で権利関係を確認することはできません。
いざ執行官が,債務者の店舗や事務所などの差押え場所に行っても,値のある動産が何もなければ空振りに終わってしまいます。
取引先の財産の情報について,正常時に少しでも入手しておけば,後で役に立つことがあるかもしれません。

なお,自動車や船舶などの登記や登録制度がある動産については,不動産執行と同じような特別な手続がとられます。

◆債権執行

債権執行は,債務者の第三債務者に対する債権を差押え,第三債務者から債務の弁済をしてもらい債権を回収する執行手続です。

代表的なものは,銀行の預金債権や債務者が他の取引先に対して持っている債権などに対する差押えです。
会社や事業者の強制執行では,多く用いられる方法です。

債権執行は,裁判所に対して申立てを行い,差押命令が送達されて一定期間経過すると,銀行や債務者の取引先などの第三債務者に対して,直接取立てを行うことができます。
銀行の預金債権を差押えれば,差押時点での債務者名義の銀行の預金口座の残高から,弁済を受けることができます。

もっとも,差押時点で預金口座に残高がなければ,債権を回収することはできません。
債務者の預金口座に残高が十分にあるタイミングを狙って差押えを行う必要があります。
正常時から,債務者の他の取引先との取引状況や従業員への給与支払日など預金口座に残高がありそうな時期を把握していれば,差押えを行うタイミングを見極める際に役に立つかもしれません。

 債権回収の確実性を高めるために

◆民事保全

強制執行を行うためには,判決などの債務名義がなければなりません。
しかし,債務名義を取得するまでには一定の時間がかかります。
その間に,債務者が財産を隠したり処分したりしてしまうおそれがある場合は,訴訟を提起する前に,債務者の不動産や預貯金などの財産を,「仮に」差押え,債務者が財産を隠したり勝手に処分することを阻止する保全の手続を行う方法があります。

◆担保権実行

債務者から事前に担保を取っておけば,債権回収の確実性が高まります。
担保には,物的担保人的担保があります。

物的担保は,債務者や第三者が所有する物や権利に抵当権や質権などの担保権を設定する方法です。
不動産に抵当権を設定しておけば,債務者が支払を怠ったときに,担保権の実行として競売を申立て,不動産の売却代金から優先的に弁済を受けることができます。

人的担保は,保証人や連帯保証人と保証契約を締結する方法です。
人的担保の場合は,回収の確実性が保証人の資力に影響されるので,財産価値のある物的担保を取っておく方が安心です。

◆財産開示手続と民事執行法改正について

強制執行を行うためには,債務者の財産を把握しておかなければなりません。
債務者の財産調査を行うには,何かしらの手がかりが必要なので,債務者との正常時のやり取りの中で,債務者の財産に関する情報をなるべく収集しておくといいでしょう。

債務者の財産を調査しても明らかとならない場合,裁判所において,債務者の財産を明らかにさせる財産開示手続があります。
債権者が申立てると,裁判所が債務者に対して財産目録の提出財産状況を陳述するように命じます。
しかし,債務者が任意に応じることは少なく,あまり実効性はありません。

そこで,この実効性を向上させるため,財産開示手続を見直す民事執行法を改正する法律が令和元年に成立しました。
この改正により,財産開示手続の申立てに必要な債務名義の種類を拡大し,債務者が正当な理由なく開示に応じない場合の罰則が強化されます。

さらに,今回の改正では,債権者の申立てにより,裁判所が第三者から債務者の財産に関する情報の提供を求める制度が新たに作られました。
これまでは,銀行などの預金債権を差押えるためには,債務者の口座がある金融機関と支店までを債権者が特定しなければならず,そこまでの特定ができなければ,強制執行を行うことができませんでした。
裁判所が金融機関から債務者の口座情報を照会する新たな制度では,これまで債務者の財産が特定できずに泣き寝入りしていたような事案でも,容易に強制執行を行うことが見込め,債権回収への期待が高まります。

おわりに

確実な債権回収のためには,契約を締結する最初から債務者の財務状況をしっかり把握し,債務不履行がないように債権の管理を徹底することが重要です。
それでも債務者の支払が滞り,債務不履行となった場合には,債権回収のために迅速に行動を起こす必要があります。
強制執行は専門的で難しい裁判手続なので,法律の専門家である弁護士に依頼されることをお勧めします。

債権回収について,少しでも不安なことがありましたら,お気軽にご相談下さい。

 

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