2019年5月30日

業務委託契約

弁護士 岡田宜智

 企業が事業を営む上では,業務委託契約書を締結し,当該企業が行う業務を外部の第三者に委託する例が多くみられます。そこで今回は,かかる業務委託契約書を締結する際の注意点等を解説します。

業務委託契約とは

 委託者が受託者に対してある業務を委託し,受託者がこれを受託することで成立する契約を業務委託契約と呼んでいます。

 委託の内容は,事務処理を目的とする場合(委任契約型の業務委託),仕事の完成を目的とする場合(請負契約型の業務委託)等,様々なものがあり,当該企業が行う業務の内容によって,委託する業務の内容も様々です。

 したがって,業務委託契約書を作成するにあたっては,委託の対象となる業務の内容を十分に特定し,かつ取引の開始から終了までどのようなリスクが生じうるのかを想像しながら,個別具体的に契約条項を検討する必要があります。

業務委託と労働者派遣の関係

「偽装請負」にあたりうる

 業務委託契約を締結し,受託者の雇用する従業者を委託者の事業所において業務を行わせる場合があります。この場合,受託者が雇用する従業者の労働力を委託者が利用するものであるという点において,労働者派遣にも類似しています。

 労働者派遣とは「自己の雇用する労働者を,当該雇用関係の下に,かつ,他人の指揮命令を受けて,当該他人のために労働に従事させること」(労働者派遣法2条1号)をいいます。

 労働者派遣に該当する場合,労働者派遣法の制約がかかるほか,派遣先は派遣労働者との関係で労働基準法の適用を受けます(労働者派遣法44条)。そのため,実態としては労働者派遣と評価すべき就労形態であるにもかかわらず,請負や業務委託の形式で契約を締結することで,かかる制約を免れ,法を潜脱するような例が見られるようになりました。これを「偽装請負」と呼んでいます。

 このように業務委託契約が労働者派遣にあたる場合(偽装請負)には,労働者派遣法違反の問題が生じるため,業務委託契約を締結する際には,「偽装請負」との指摘を受けないための配慮が必要となってきます。

業務委託か労働者派遣かの区別

 労働者派遣の定義にあるとおり,労働者派遣の場合,労働者に対する指揮命令権は「他人」,すなわち派遣先にあります。他方,業務委託の場合,受託者が雇用する従業者に対する指揮命令権は「自己」,すなわち受託者にあります。

 このように労働者に対する指揮命令権の所在が一つのメルクマールになっています。実務では,「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示37号)が上記の区別の基準として運用されています。

この基準によれば,

①自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること
②請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること

のいずれにも該当する場合を除き,労働者派遣事業を行う事業主とするとされています。そのため,仮に業務委託契約の形式をとっていたとしても,①②の要件を充足しない場合,その契約は偽装請負とされてしまうことになります。

 なお,偽装請負となるかどうかについて,厚生労働省は疑義応答集を公開しています。 https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gigi_outou01.html

下請法と業務委託

 業務委託契約における受託者は委託者に比して零細な業者であることも多く,このような場合,委託者(親事業者)は受託者(下請事業者)に対し,その優越的地位を利用して下請代金の減額や支払の遅延をすることがあります。

 そこで,下請事業者の利益保護を図るべく,下請代金支払遅延等防止法(下請法)が制定されています。業務委託契約を締結する場合,この下請法の適用があるかという点についても留意する必要があります。

下請法が適用される場合

 下請法は,下記のとおり,取引の種類および親事業者と下請事業者の資本金の額という形式基準によって適用されるか否かが決まります。

 取引の種類が
物品の製造委託・修理委託
プログラム作成にかかる情報成果物作成委託
運送,物品の倉庫における保管および情報処理に係る役務提供委託     の場合

親事業者

下請事業者
資本金3億円超の法人 個人事業主又は資本金3億円以下の法人
資本金1千万円超3億円以下の法人 個人事業主又は資本金1千万円以下の法人

 取引の種類が
情報成果物作成委託(プログラムの作成を除く)
役務提供委託(運送,物品の倉庫における保管および情報処理を除く)   の場合

親事業者

下請事業者
資本金5千万円超の法人 個人事業主又は資本金5千万円以下の法人
資本金1千万円超5千万円以下の法人 個人事業主又は資本金1千万円以下の法人

に適用されます。

 下請法の適用範囲については,公正取引委員会のQ&Aもご参照ください。https://www.jftc.go.jp/shitauke/sitauke_qa.html#cmsQ1

親事業者の義務

 下請法上の下請事業者と業務委託契約を締結する場合,下請代金の支払期日を納品日の60日以内で定める必要があり(下請法2条の2),合意内容を記載した書面を交付しなければならず(同3条),取引内容を記載した書面の保管義務を負い(同5条),支払期日までに代金を支払わなかった場合,年14.6%の割合による遅延損害金を支払わねばなりません(同4条の2)。

個人情報の管理の問題

 業務委託契約の遂行過程では,委託者と受託者との間で個人情報のやりとりがなされることも多くあります。それゆえ,業務委託契約を締結するに際しては,個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)を念頭に置いた上で,個人情報の取扱いについても留意する必要があります。

 個人情報取扱事業者は,その取り扱う個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならず(個人情報保護法20条),個人情報の取扱いを委託する場合には,委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません(同22条)。

 従来,個人情報の取扱件数が5000人以下の事業者は,法規制の対象から除外されていました。しかしながら,2017年の個人情報保護法の改正により,個人情報を取り扱うすべての事業者が対象となっていますので注意が必要です。

おわりに

 業務委託契約で取り扱われる業務は多種多様であり,適切な契約書を作成するためには,法的知識が不可欠といえます。また,上記のような法規制との関係もあり,法令との抵触がないかどうか,専門家の関与のもとで作成されることが望ましいでしょう。

 これから業務委託契約書を作成しようとしているのであれば,ぜひお気軽にご相談ください。

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