2026年5月29日

「家族信託」のススメ
~なぜ今「家族信託」が注目されているのか?~

弁護士 沼尻隆一

プロローグ:ある家族の悩み

70歳を超えた父・法一郎さんと暮らす「浦々(ウラウラ)家」。
最近、法一郎さんの物忘れが目立つようになり、娘の法子さんは心配していました。
「このまま父が認知症になったら、預金を引き出したり、自宅を売って介護資金を用意するのは大変かもしれない……」

そんなとき、近所の友人から「家族信託っていう仕組みがあるらしいわよ」と聞きました。
でも、そもそも『家族信託』って何? 遺言や成年後見制度とはどう違うの?
こうした疑問に答えるために、まずは、現代社会が抱える課題を見ていきます。

相続や認知症リスクをめぐる現代社会の課題

日本は超高齢化社会に突入しています。
平均寿命は延び続け、元気に長生きする方もおられますが、他方で、認知症を患う高齢者の方も増えています。
厚生労働省の推計では、2025年以降、65歳以上の5人に1人以上が、認知症になるとも言われています。

そのような状況で大きな問題となるのが「財産管理」です。
夫や親が、認知症になったとき、預貯金の引き出しや不動産の処分ができなくなり、妻や子どもが、代わりに行おうとしても銀行や役所に断られる、というケースがよくあります。
また、認知症になった高齢者が亡くなった場合、相続の場面では、親・兄弟姉妹の間で「誰がどの財産を引き継ぐか」をめぐって争いが生じることも珍しくありません。
現代社会では、このようなリスクに備える仕組みが強く求められているのです。

従来の制度(遺言・成年後見制度)の長所・短所と限界

財産の管理や承継のために、従来から用いられてきた制度があります。
代表的なものが「遺言」「成年後見制度」です。
これらは一定の場面では有効に機能しますが、以下述べるとおり、決して万能ではなく、それぞれ長所・短所や得手・不得手があります。

【遺言の場合】

◆できること(適していること)

遺言は、自分が亡くなった後に「どの財産を、誰に承継させるか」を指定できる制度です。
例えば、「自宅は長男に、預金は次男に相続させたい」というように、死後の財産の分け方を事前に決めておけます。相続争いを防ぐための有力な手段です。

◆できないこと(不具合が出やすい場面)

ただし、遺言はあくまで死後にしか効力が生じません。
たとえば、認知症が進んだときに「親の代わりに銀行から生活費を引き出す」「介護施設への入居資金を工面するために自宅を売却する」といった、「生前の財産管理」のためには使えません。
さらに、遺言は「一代限り」です。
「自分の死後は妻に、その後は子に」という二段階の承継は、遺言では指定できません。

【成年後見制度の場合】

◆できること(適していること)

成年後見制度は、認知症などで判断能力が低下した人に代わり、後見人が財産を管理する制度です。
後見人は裁判所に監督されるため、悪用されにくいというメリットがあります。
例えば、認知症になった本人のための介護費用を支払ったり、日常生活に必要なお金を出したりすることは可能です。

◆できないこと(不具合が出やすい場面

しかし、成年後見制度は「財産を守る」ことに重きを置くため、財産を積極的に活用することは難しいのです。
例えば本人名義の不動産の売却や資産の譲渡など、相当額の財産の処分行為については、原則として裁判所の許可が必要となりますが、「遊休不動産を売却して、子や孫のために有効活用する」「将来の相続税対策のために生前贈与を行う」といった行為は、財産処分の差し迫った必要性などを証明できない限り、裁判所の許可が、そう簡単にはおりません。


また、親族が後見人に就けない場合は、弁護士や司法書士といった専門職が就任することになりますが、その後見人報酬が場合によっては、毎月数万円かかることもあります。(なお、専門職後見人の報酬額は、裁判所が決めることになっています。)

家族信託(民事信託とも言います)の位置づけと役割

そこで注目されているのが「家族信託(民事信託)」です。
先ほどみてきたような、「遺言」「成年後見制度」の限界を踏まえると、生前から柔軟に財産管理をしつつ、死後の承継まで見通せる仕組みとして、家族信託の意義が際立ってきます。


家族信託(民事信託)とは、分かりやすくいえば、信頼できる家族(など)に財産の管理や処分を託す仕組みで、「財産を、信頼できる者(家族など)に託して、柔軟に管理・承継していく仕組み」です。
例えば、高齢のお父さんが自宅や預金を息子に信託し、息子が受託者としてそれらを管理・処分できるようにすれば、万一お父さんが判断能力を失っても、息子がスムーズに手続きを行うことが可能になります。
認知症になる前に信託を設定しておけば、本人の判断能力が失われた後でも、受託者である子どもが預金を動かしたり、不動産を売却したりすることができます。

また、遺言では、1代限りの相続指定しかできませんが、家族信託を使えば「自分が亡くなったら妻へ、その後は子へ」といった、“二次相続”までを見据えた承継を、遺言という方法を用いずに、設定することが可能です。
あるいは、障害を持つ二男がある場合、自分が亡くなった後は、妻が自分の財産を管理運用して二男の生活のために支出し、妻が亡くなった後は、長男が自分の財産を管理運用して二男の生活を支える、といった手段を信託で設定することもできます。
このように、家族信託を利用することによって、遺言や成年後見制度の“弱点”を補うことができます。


つまり、家族信託は、これからの相続・財産管理において、より柔軟で実用的な選択肢となるのです。
従来の制度では解決できなかった「財産管理と相続承継を一体的にデザインする・できる」という点が、家族信託の大きな魅力であり、可能性なのです。
さらにいえば、家族信託は単なる「財産管理の手段」にとどまりません。
たとえば、先に述べたように「障がいのある子どもが将来安心して暮らせるように生活資金を用意する」(親なき後の子の問題)「二次相続を見越して孫世代まで資産をつなげる」といった、家族の将来像に合わせた設計も可能です。

家族の安心~家族信託を含めた将来のプラン策定のため、弁護士を利用ください

こうした利用方法は、単なる財産管理・資産承継を超えて、『家族の将来設計を契約(信託契約)でかたちづくり、支える』という意味を持ちます。
信託という契約・考え方自体は古くから存在していますが、2006年に信託法の改正がなされるまでは、個人が、家族の財産管理・運営のために信託を設定する等のことができませんでした。


法改正によって、信託契約を、家庭の財産管理のために使えるようにしたのが、家族信託だと、申せましょう。
信託契約の当事者には、「委託者」・「受託者」・「受益者」といった様々な当事者があり、それぞれ、担う役割があります。
この信託契約の締結・活用によって、家族の資産を、安全に、かつ柔軟に運用・承継することが可能になります。

これからの時代においては、遺言や後見など、既存の法制度ばかりでなく、家族信託をも、組み合わせて利用することが、家族の安心と円満な財産承継のために重要になってきています。

当事務所では、それぞれのご家族等の実情に応じ、様々な家族信託等のプランを用意し、実施できます。
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