少子高齢化にともなう遺言書作成の必要性
弁護士 鈴木幸子
はじめに
少子高齢化が進む我が国では、今後、お子さんがいないご夫婦、あるいは単身者が増加していくと考えられます。
事例
さて、一つ事例を挙げます。
甲氏夫婦には子がいませんでした。
長年にわたり、実家に母親と同居していました(父親はすでに亡くなっています)。
実家の建物が古くなったので、甲氏と母親がお金を出し合い、建て替えることになりました。
実家の土地は母親の単独所有でした。
新築した建物は甲氏が持分3分の2、母親が持分3分の1の共有としました。
母親は、甲氏の妻の介護を受けながら、自宅で闘病の末亡くなりました。
当時甲氏は年金生活者でした。
甲氏には二人のきょうだいがいました。
甲氏夫婦が住む自宅は、法律上は、母親が亡くなった時点で、相続により、敷地が甲氏ときょうだい二人の持分3分の1ずつの共有に、建物の内母親の持分3分の1が甲氏ときょうだい二人の9分の1ずつの共有となるため、結局、建物全体は、甲氏の持分9分の7、きょうだい二人の持分9分の1ずつの共有となりました。
非常に複雑な権利関係になってしまったのです。
このケースでは、母親の遺産としては不動産のほかに預貯金があり、甲氏のきょうだい二人もそれぞれ本人あるいはその配偶者が自宅を所有していたため、預貯金をきょうだい二人が相続し、自宅不動産の内、母親所有の土地と建物の母親の持分を甲氏が相続することとし(つまり、自宅不動産が甲氏の単独名義になります)、その結果甲氏が法律上の相続分より多く取得することになるので、自身がきょうだい二人にその分のお金(代償金)を支払うことで話し合いが成立しました。
振り返り
あくまで甲氏の側に立って、後から考えてみると、不動産はできるだけ共有にしないこと、母親に遺言書(例えば「自宅不動産の土地と建物の持分は甲に、預貯金は二人のきょうだいに2分の1ずつ相続させる」)を作成しておいてもらうことが必要でした。
きょうだいには、遺留分(例えば、子と配偶者が相続人である場合は、全部子に相続させる旨の遺言書があっても遺産の2分の1の法律上定められた相続分、妻であれば2分の1の2分の1、つまり4分の1の取得を主張できます。)はありませんから、甲氏は、少なくとも、甲氏が法律上の相続分より多く取得する分のお金を二人のきょうだいに支払わなくても済んだからです。
今後
今後、もし、甲氏が妻より先に亡くなった場合には、甲氏には子がいないので、法律上は、甲氏の妻ときょうだい二人(きょうだい二人が亡くなっている場合にはその子たち)が甲氏の単独名義になった自宅不動産を妻4分の3、きょうだい二人が8分の1ずつの割合で相続することになります。
甲氏自身に母親のような蓄えは在りませんし、そもそも甲氏のきょうだいと妻は他人なので、話し合いがうまくいくかどうかも心配です。
また、甲氏のきょうだい二人もそこそこの年齢ですので、その子たちが相続人となった場合には関係者がさらに増えてしまいます。
そこで、甲氏は念のため、全部妻に相続させる旨の遺言書の作成を考えています。
単身者の場合も、きょぅだいと折り合いが悪く、きょうだいやその子たちには遺産を渡したくない場合は、遺言書を作成しておくことが必要です。