会社の専務取締役は労働者から(「使用従属性」に関する判断基準)
弁護士 堀 哲郎
はじめに
2025年6月11日付け朝日新聞朝刊に、建設会社の専務取締役だった男性が急性心筋梗塞で亡くなった事案で、2018年に労災認定されていたことが判明した旨の記事が載っていました。
従業員(労働者)を1人でも使用する事業所は、5人未満を雇用する農林水産業を除き、当然に(労災)保険関係が成立し、適用事業所に働く従業員(労働者)はすべて労災保険の対象になりますが、労災保険による保険給付を受けるためには、労働基準法第9条に定める「労働者」に該当しなければなりません(労働者性)。
すなわち、上記事案では、建設会社の専務取締役だった男性に「労働者性」が認められたわけです。
労働者性の判断基準
厚生労働省(労働基準局)は、労働者性の判断基準として、次のとおり告示しています(厚生労働省提出資料)。
労働基準法第9条では、「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定している。
労働基準法の「労働者」に当たるか否か、すなわち「労働者性」は、この規定に基づき、以下の2つの基準で判断されることとなる。
〇労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか
〇報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか
この2つの基準を総称して「使用従属性」と呼ぶ。
「使用従属性」が認められるかどうかは、請負契約や委任契約といった契約の形式や名称にかかわらず、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要素から、個別の事案ごとに総合的に判断される。
この具体的な判断基準は、労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)において、以下のように整理されている。
・「使用従属性」に関する判断基準
(1)「指揮監督下の労働」であること
・仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
・業務遂行上の指揮監督の有無
・拘束性の有無
・代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
(2) 「報酬の労務償性」があること
労働者性の判断を補強する要素として…
・事業者性の有無
・専属性の程度
・その他
冒頭掲記の事案では、対象者は建設会社の専務取締役、すなわち法人の役員であり、本来、使用者側にある者で、「労働者性」は認められないのが原則です。
とはいえ、わが国においては、形式的に法人の役員とされていても、実質的には労働者と変わらないという実態が数多く存在しています。
こうした実態を踏まえ、労働基準監督署は、法人の取締役、理事等の地位にある者であっても、法令、定款等の規定に基づいて業務執行権(代表権)を有すると認められる者以外の者で、事実上、業務執行権を有する取締役、理事等の指揮、監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を得ている者は、原則として労働者として取り扱っており、先の事案も、こうした取り扱い(上記昭和60年の判断基準)に沿って判断されたものと思われます。
すなわち、労働基準監督署は、工事の受注や人員配置などを決める「業務執行権」は代表取締役にあり、対象者にはなく、実質は代表取締役の指揮の下で働く労働者だったとして労災認定をしたのです。
もっとも、上記判断基準に適う実態を証明するには相当な困難を伴うことは否めません。現に、前記新聞記事も、複数名の同僚らからの協力があったことを伝えています。
ところで、厚生労働省労働基準局の労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)に示された「使用従属性」に関する判断基準では、昨今の働き方の多様化に対応しきれていないとして、同研究会は、より実態に沿った労災認定ができるようにすべく、令和7年5月から、判断基準の見直しの議論を始めました。
その成果が期待されるところです。