2024年5月31日

区分所有法改正の動き

 弁護士 河原﨑友太

はじめに

2024年1月16日に,法制審議会の区分所有法制部会によって区分所有法改正要綱案が決定されました。
政府は今国会への提出については見送ることにしたようですが,今秋に見込まれる臨時国会などへの提出も考えられますので,改正された場合の主な変更点について触れておきます。

1 集会決議の円滑化

この部分の見直しに関しては,(1)所在等不明区分所有者を集会の決議の母数から除外する仕組み(2)出席者の多数決による決議を可能とする仕組み,の2点に関して,実務的には一番身近で影響が大きいように思います。

(1)所在等不明区分所有者を集会の決議の母数から除外する仕組み

管理組合運営にあたっては,共有部分の管理や管理規約の変更,建替え決議など,多くの場面で総会決議を取る必要が生じます。

総会の議事は,法律や規約に別段の定めがない限り,区分所有者及び議決権が分母となり,これに対する賛成票を分子として決することとなります。

そのため,所在等が不明な区分所有者がいる管理組合においては,所在等不明者も分母に計上する一方で,(賛否を明らかにすることがない)所在等不明者は自ずと反対として取り扱うこととなり,円滑な管理を阻害する要素となっていました。

そこで,改正案では,区分所有者や管理者等[1]が裁判所に対して,所在等不明区分所有者及びその議決権を集会の決議から除外することができる旨の裁判を求めることを可能とする仕組みを創設することとなっています。

実際には,住民票の異動確認,専有部分[2]での調査(水道光熱費のメーターが動いているか否か),近隣住民からの聴き取り調査等を行うなど,裁判所において判断可能な程度の資料を収集した上で申立てをする必要があろうかと思います。

(2)出席者の多数決による決議を可能とする仕組み

前述のとおり,これまで,総会の議事は区分所有者及び議決権を分母としていたため,(委任状や書面による議決権行使をせず)総会へ参加しない区分所有者については反対者として取り扱うこととなっていました。

そのため,この点の改善策として,端的に出席した区分所有者及び議決権を分母とした決議を可能とする仕組みが設けられることとなりました。

建替え決議などの区分所有権の処分を伴う決議は対象外になりますが,普通決議事項や規約変更等の決議事項等の場面で可能になりますので,円滑な管理組合運営が可能になると考えられます。

2 区分所有建物の管理に特化した財産管理制度の創設

所在等不明区分所有者の専有部分は,通常適切な管理を期待することができない状態にあるため,これを放置することによって共用部分や他の専有部分へ悪影響を及ぼす可能性を否定することができません。

従来から,これに対応するために不在者財産管理制度(民法25条)などが用いられてきましたが,同制度では,人単位での財産管理となるため,所在等不明区分所有者の専有部分のみでなく,不在者に関するその他の財産関係を管理しなければならないことから非効率であるとの指摘がされていました。

また,民法改正により所在不明建物管理命令の制度(民法264条の8)が創設されていますが,この制度は,専有部分及び共用部分には適用しない(区分所有法6条4項)とされており,区分所有マンションで用いることはできませんでした。

そこで,今回,これらの制度を参考として,区分所有建物の管理に特化した形の財産管理制度が創設されることとなりました。この制度により,不在者に代わる管理人による適切な管理を期待することができるようになります。

なお,上記は専有部分の所有者の所在が不明な場合ですが,所在は分かっているが単純に管理不全に陥ってしまっているような専有部分や共用部分についても,管理不全専有部分(共用部分)管理人を選任することもできるようになります。

3 決議要件の緩和

管理組合運営では多くの場面で総会決議を取る必要が生じます。
議事は原則として過半数を多数決割合と定められていますが,区分所有者の利害に重大な影響を与える議題については,より決議要件が厳しく設定され,より多くの区分所有者の賛成を必要とすることとなっています。
この点,今回の改正により,一定の場合[3][4]に限定はされるものの,共用部分の変更決議(4分の3以上→3分の2以上)建替え決議(5分の4以上→4分の3以上)などについて,それぞれ決議要件が緩和されることになります。

終わりに 

改正点は他にもありますが,いずれも,老朽化したマンションの増加,所在不明者や区分所有者の非居住化などを理由とする組合運営の困難化などへの対応を可能とすることを目的としています。
中でも,1(2)で触れた出席者の多数決を可能にする改正点などは実務への影響は大きく,管理組合運営の円滑化に資するものと思われます。

 

[1] 通常の場合には理事長が管理者に該当します

[2] 301号室などの住戸を指します

[3] 共用部分の変更決議については,共用部分に設置や保存に瑕疵があることによって他人の権利等が侵害されるような場合にその瑕疵を除去するために必要となる場合,高齢者等の移動等に係る身体の負担を軽減することによる利便性や安全性等を向上させるために必要となる場合が該当します

[4] 建替え決議については,地震や火事に対する安全性が法令等に定める基準に適合していない場合等が該当します

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