2024年4月30日

改正刑事訴訟法(令和5年法律第28号)について

弁護士 岡田宜智

【はじめに】

2023(令和5)年510日に刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和5年法律第28号、以下「本改正」といいます)が成立し、公布の日(同年17日)から起算して5年を超えない範囲内において施行するとされました。

本改正は、法制審議会の担当部会(刑事法(逃亡防止関係)部会)の審議を経て成立したものです。

本改正の内容は、「公判期日等への出頭及び裁判の執行を確保するための規定の整備」をするものとされ、列挙すると、

① 公判期日への出頭を確保するための罰則の新設

② 保釈等をされている被告人に対する報告命令制度の創設

③ 保釈等をされている被告人の監督者制度の創設

④ 保釈等の取消し及び保証金の没取に関する規定の整備

⑤ 拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告後における裁量保釈の要件の明確化

⑥ 控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭の義務付け等

⑦ 位置測定端末により保釈されている被告人の位置情報を取得する制度の創設

⑧ 拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者等にかかる出国制限制度の創設

⑨ 裁判の執行に関する調査手法の充実化

となっています。

令和6年4月末日現在、すでに③、⑦、⑧を除く規定は施行されており、保釈に関する法改正が大きくなされています(⑤は、R5.6.6から、①、②、④、⑥、⑨はR5.11.15から施行されています)。

そこで、すでに施行されている改正内容を簡潔に説明していこうと思います。

【公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設】

これまでは、保釈中の被告人は、公判期日への出頭等を行わなくとも、(保釈保証金の没取がされることはあっても)それ自体は罪に問われるわけではありませんでした。

しかし、今回の改正では、保釈中の被告人が、正当な理由なく、公判期日への不出頭等を行った場合、その行為が罰則の対象となりました。

新設された罪は以下のとおりですが、法定刑は、いずれも2年以下の拘禁刑とされています。

①保釈又は勾留の執行停止(以下、「保釈等」)をされた被告人の公判期日への不出頭罪(法2782

②保釈等をされた被告人の制限住居離脱罪(法95条の3

③保釈等の取消し・失効後の被告人の出頭命令違反の罪(法98条の23)(法343条の23

④勾留の執行停止の期間満了後の被告人の不出頭罪(法95条の2

⑤刑の執行のための呼出しを受けた者の不出頭罪(法484条の2

【保釈等をされている被告人に対する報告命令制度の創設(法95条の4)】

本改正により、裁判所は、住居、労働又は通学の状況等、被告人が逃亡すると疑うに足りる相当の理由の有無に判断に影響を及ぼす生活上又は身分上の事項として裁判所が定める事項について、被告人に対し報告を命じることができるようになりました。

この報告命令に正当な理由なく違反した場合、保釈が取り消され、保証金の没取がなされることになりました(法9615号、962項)。

この報告命令の違反にも罰則が検討されたようですが、それは見送られました。

【保釈等の取消し及び保証金の没取に関する規定の整備(法964項、5項)】

これまでは、実刑判決を受けた被告人が逃亡した場合であっても、保釈を必要的に取消す旨の規定はなく、裁判所の裁量に委ねられていました。

しかし、改正法は、必要的に保釈を取り消し、保証金を没取することとしました。

【拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告後における裁量保釈の要件の明確化(法3442項)】

一審で実刑判決を受けた後の保釈請求については、権利保釈は認められず、裁量保釈のみが認められます(法3441項)。

そして、この裁量保釈について、法90条は「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を認めることができる」と規定しています。

実刑判決後の再保釈に関しては、これまでは、この裁量保釈の要件(法90条)に従い保釈の判断がなされていましたが、改正法では90条の規定する「不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならない」(法3442項)と要件が明確化されました。

もっとも、本規定は、これまでの実刑判決宣告後の裁量保釈の判断の在り方を条文上明確にするもので、裁量保釈の範囲を殊更に限定しようとするものではないとされています。

【控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭の義務付け等】

原則として、控訴審においては、被告人は公判期日に出頭することを要しないとされています(法390条)。

それゆえ、これまでは、保釈中の被告人が、控訴審の判決宣告期日に出頭せず、控訴審で実刑判決を受けても収監されるのはまた後日ということが可能でした。

しかし、改正法は、やむを得ない事由がない限り、裁判所は、保釈等をされている被告人に対し、控訴審の判決宣告期日に出頭を命じなければならず(法390条の2)、出頭しない場合には、判決宣告ができない旨を規定しました(法402条の2)。

この改正によって、保釈中の被告人は、控訴審の判決期日に出頭しなければならず、また、判決の宣告によって保釈は失効しますので(法343条1項)、直ちに収監されることが避けられなくなりました。

【裁判の執行に関する調査手法の充実化】

本改正により、捜査段階における強制処分同様の調査権限が、裁判の執行についても整備されることとなりました(法5081項以下)。

例えば、刑の執行段階において、逃亡してしまった者の自宅を捜索して、逃亡先を突き止めるための材料を集めるようなことを想定しているようです。

【おわりに】

今後、「保釈等をされている被告人の監督者制度の創設」は、令和6515日に、「拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者等にかかる出国制限制度の創設」は、令和7516日までに、「位置測定端末により保釈されている被告人の位置情報を取得する制度の創設」は令和10516日までに施行されることが予定されています。

上記のとおり、監督者制度は近く施行が予定されていますが、これは裁判所が保釈等を認める際に、必要と認めるときは、適当な者を監督者として選任することができるというものです(法98条の4)。

監督者は、被告人の逃亡を防止し、公判期日への出頭を確保するために必要な監督をすることとされ、これまでの身元引受人と同じような立場にありますが、監督保証金の納付を求められ(法98条の5)、保釈等が取り消される事態になった場合には、当該監督保証金は没取される(法98条の11)点で、従来の身元引受人よりも法的な責任を伴うものとして設計されています。

どのような場合に監督者が選任されることになるのか、実務の運用を注視していく必要があります。

以上

 

 

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