2023年9月29日

普通解雇

 弁護士 水口 匠

普通解雇とは

解雇とは、使用者側から、労働者との間の雇用契約を一方的に解約することをいいます。

この解雇は大きく分けると普通解雇懲戒解雇に分けられますが、普通解雇の中でも労働者側に事情があるいわゆる普通解雇と、使用者の経営事情による整理解雇があります。

ここでは、普通解雇の中でも整理解雇ではない、いわゆる普通解雇を取り上げていきます。

ここで大切なことは、解雇(普通解雇に限らず、すべての解雇に当てはまります)が、使用者側から労働者に対して、その地位を一方的に奪うというとても大きな影響を及ぼす行為であるということです。

そこで、労働基準法や労働契約法、その他の法律は、労働者保護の観点から様々な法規制を行なっています。

普通解雇のための手続

解雇予告義務

解雇の手続について、民法では、期間の定めがない雇用契約の場合、各当事者が解約の申し入れをしてから2週間を経過することによって契約は終了するとされています(民法627条)。

しかし、先ほども述べたとおり、解雇については労働者保護の要請が働くため、労働基準法では、天変地異などやむを得ない事由で事業継続が不可能になった場合や労働者の責任に基づく事由でない限り、使用者は労働者を解雇しようとするときは、少なくとも30日前までにその予告をするか、平均賃金(ここでは1日あたりに支払われるべき賃金程度に考えてください)の30日分以上を解雇予告手当として支払わなければならないと修正しています。(20条1項)。

この予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合にはその日数を短縮することができます。
つまり、解雇の予告期間と解雇予告手当に日数分の合計が30日以上になっていればよいということになります。

ちなみに、解雇予告義務に反した即時解雇については、通知後30日を経過するか、解雇予告手当の支払をした時は、解雇の効力が生じることになります。

解雇理由の明示

また、労働基準法は、解雇に関し、後々の紛争防止または適正な紛争解決を目的として、解雇に際して労働者の求めがあった場合には、使用者に解雇の理由を記載した証明書(解雇理由証明書)の交付を義務付けています(労働基準法22条)

解雇理由証明書は、すでに解雇された労働者に対しても、解雇予告をした労働者に対しても交付しなければなりません。

この解雇理由証明書には、解雇の理由を具体的に示す必要があり、就業規則に該当することを理由として解雇した場合には、その条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係を記載しなければならないとされています。

なお、この解雇理由証明書を交付しない場合であっても、それを理由として解雇が無効となるという直接的な効力が生じることはありません。

しかし、労働基準法上、使用者に罰則が下されることがあるほか、解雇の効力が裁判などで争われた場合に、使用者側に不利に影響することがあります。

解雇の禁止

以上のような手続きを踏んだとしても、なお、一定の場合には、労働者を適正に保護する観点から普通解雇をすることができない旨を、労働基準法その他の法律は規定しています。
例えば、

・傷病で療養のために休業する期間及びその後30日間の解雇(労働基準法)

・産前産後の女性が休業する期間及びその後30日間の解雇(労働基準法)

・性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法)

・労働組合員であることや労働組合に加入したことを理由とする解雇(労働組合法)

など多岐にわたります(ほかにもあります)。

これらはいずれも、労働者の責めに帰すべき事由がないことを理由とする解雇であり、不当な解雇を防止するためのものです。

解雇権濫用の法理

その他にも、労働契約法という法律では、解雇について「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして無効とする」と定められています(16条)。

つまり、解雇が有効といえるためには、解雇の予告時において、個々の事情を総合的に考慮して、雇用契約を継続することが期待できないほど重大な理由があり、解雇以外の措置をとることが一般的に考えてできないと認められることが必要であるということです。

ここで、解雇権の濫用が問題となる類型を2つ、みていきます。

従業員の能力不足を理由とする解雇

雇用契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者はこの労働に対して賃金を支払う契約ですので、労働者にその能力がなく、使用者の指示に従って労務を提供できないのであれば、契約不履行ということにもなります。

ただ、能力不足といっても、その程度や内容は様々ですし、使用者の対応によっては、今後能力がついてくることも十分に考えられます。
いくら能力が不足しているからといっても、その程度が軽微であったり、使用者の側で何も教育や指導をすることなく解雇にすれば、解雇権の濫用となります。

そこで、能力不足を理由に解雇をしようとするときは、①その能力不足の程度、②教育、改善の機会の付与、という点を考えていかなければなりません。

①能力不足の程度については、他の従業員と比較して相対的に能力が劣るというのみでは足らず、絶対的な評価として労働能力の不足が著しいと認められることが必要になります。

特に終身雇用を前提として長期にわたり勤続してきた正規職員のような場合には、解雇による労働者の不利益の大きさを考慮し、単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じまたは重大な損害を生じるおそれがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要する、とした裁判例があります。

②教育、改善等の機会の付与については、入社後、必要な教育・研修を十分に行い、あるいは指導や配置転換によって改善や能力発揮の機会を与えたにもかかわらず、向上や改善の見込みがないといえるような場合でなければ、解雇が認められないことが多いと考えられます。

一方で、高度な能力を評価され、相応の待遇を受けて即戦力として採用されたような従業員が、その能力を有していなかったような場合には、比較的に容易に解雇が認められる傾向があります。

職場規律違反を理由とする解雇

職場規律違反は、例えば重いものでは横領や背任、同僚や上司への暴行などがあり、その他にも誹謗中傷、セクハラ、上司や同僚への批判、内部告発など、様々な態様のものがあります。
これらの中には、懲戒事由に該当するものも多いですが、これにより労働契約の目的が達成できないのであれば、普通解雇事由にもなります。

職場規律違反が解雇事由となるかどうかは、一義的に決まるものではなく、個々の事案について、その動機、内容、労働者の立場、職場への影響、使用者の指導、本人の反省などを総合的に考慮して決めることになります

過去の裁判例では、解雇を有効にしたものも無効にしたものもありますが、いずれも具体的事案を精査し、その規律違反が社会通念に照らして著しく不相当といえるかどうかを判断しています。

総じて、裁判所では解雇を有効とすることに慎重な姿勢をとっているといえるでしょう。

 

このように、法律や裁判実務では、解雇について、かなり慎重な態度を示しています。

使用者が企業活動をするために、時に労働者を解雇するという手段を選択せざるを得ないこともありますが、無用なトラブルを避けるため、事前にしっかりと分析しておく必要があるでしょう。

 

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