2023年5月31日

住所・氏名等の秘匿制度

弁護士 近藤 永久

「相手方に住所や氏名を知られたくないんです。」

ご依頼いただく事件の内容によっては、依頼者からこのようなご要望を受けることがあります。

例えば、配偶者のDVが原因で別居に至った被害者から離婚訴訟の依頼を受けた場合や、性犯罪被害者から加害者に対する損害賠償請求訴訟の依頼を受けた場合など、事件の相手方に対して依頼者の住所を秘匿すべきケースは多く存在します。

従前は、訴状に原告の住所・氏名を記載しなければなりませんでした。

訴状は相手方(被告)に送達されますので、訴状に記載した情報は相手方(被告)に伝わってしまいます。

なお、従前から「訴訟記録の閲覧制限」という制度はありましたが、これは訴訟の当事者ではない第三者の閲覧を制限するものであり、事件の当事者には適用されません。

そこで、従前は、依頼者の住所等を秘匿すべきケースでは、訴状に記載する住所を相手方に知られても構わない住所にするなど(例えば、旧住所や、代理人弁護士の事務所住所等です)、事実上の工夫をして対応していました。

このような工夫については、秘匿を希望する理由にもよりますが、裁判所もある程度柔軟に認めてくれていたように思います。

この点、本年2月20日に「住所・氏名等の秘匿制度」が施行され、一定の事情があれば訴状に住所、氏名等を記載しなくてもよいこととなりましたので、今回はこの制度の概要をご紹介したいと思います。

 

 

住所・氏名等の秘匿制度とは

上述のとおり、一定の事情があれば、訴状等に住所・氏名等を記載しなくとも訴訟提起が可能となる制度です。

訴訟に限らず、調停や強制執行の際にも利用可能です。

 

どのようなケースで利用できるか

制度を利用できるのは、「住所等又は氏名等が他の当事者に知られることによって、申立て等をする者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ」がある場合に限定されています。

上記の「おそれ」が認められるのは、例えば以下のようなケースであると考えられます。

DV被害者と加害者間の訴訟、調停

・性犯罪被害者と加害者間の訴訟

・児童虐待、ストーカー行為、反社会的勢力絡みの事案

上記の「おそれ」が存在しない場合には、秘匿は認められません。

例えば、単に相手方に住所を知られるのは気分が悪いから、というだけでは、秘匿は認められないでしょう。

 

どのような情報が秘匿の対象になるか

秘匿の対象は、「申立て等をする者又はその法定代理人の住所等と氏名等」です。

・申立て等をする者とは、原告、被告、当事者参加人、補助参加人等のことです。

・法定代理人とは、申立て等をする者の親権者等のことです。

・住所等とは、住所、居所、その他通常所在する場所です(勤務先など)。

・氏名等とは、氏名その他その者を特定するに足りる事項です(本籍など)。

上記以外の者、例えば、証人等や申立て等をする者の親族の住所等・氏名等は、秘匿決定の対象になりません。

 

制度を利用する場合の流れ

①申立て

申立て等をする者又はその法定代理人において、裁判所に対し、次の書類を提出します。

・秘匿申立書

・秘匿事項届出書面(秘匿すべき事項=相手方に知られたくない真の住所や氏名等を記載した書面)

・「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ」があることを疎明する資料

裁判所が事案に応じて独断で秘匿決定をしてくれるわけではなく、当事者からの申立てが必要であることに注意してください。

なお、当然ですが、秘匿決定の判断が出るまで、他の当事者等が届出書面を閲覧することはできません。

②審理

上記の「おそれ」が認められるか否か等について、裁判所が審理します。

③秘匿決定

上記②の審理の結果、申立てが法律上の要件を満たしていると判断されれば、裁判所が秘匿決定をします。

裁判所は、秘匿決定と同時に、代替事項=秘匿対象となった住所・氏名等の代わりに書面に記載すべき事項を定めます。

例えば、住所を秘匿しているケースで、真の住所は「さいたま市浦和区高砂」である場合に、「代替住所A」と定められたとします。

この場合、以後提出する書面には、真の住所(さいたま市浦和区高砂)ではなく、代替住所Aと記載することとなります。

なお、秘匿決定に対して不服申し立て(即時抗告)をすることはできません。

逆に、秘匿申立てを却下する決定に対しては不服申し立て(即時抗告)を行うことができます。

 

以上が、制度の概要です。

適切に運用されれば、住所・氏名等の秘匿が必要なケースにおいて、訴訟等の法的手段を活用しやすくなると思われます。

一方で、今後、秘匿希望の場合は全てのケースにおいて当該制度を利用するよう義務付けられ、制度施行前のような事実上の工夫は認められなくなるのだとすると、かえって訴訟等を利用しづらくなるケースが出てきてしまうかもしれません(上記の「おそれ」を疎明できるかどうか微妙なケースなど)。

新しい制度ですので、裁判所が制度施行後も従前のような事実上の工夫を認める姿勢であるのか、現時点では不明ですが、柔軟な対応を期待したいと思います。

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