フリーランス保護法案閣議決定
弁護士 鈴木幸子
はじめに
本年2月24日の閣議で、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス保護法案)」を政府が今国会に提出することが決まりました(閣議決定)。
今後の国会での審議が注目されます。
但し、法律案の詳細は未だ公表されていませんので、お含みおきください。
法律案の概要
この法律案の特定受託事業者とは、業務委託の相手方であって従業員を使用しない者(個人。以下「フリーランス」と言います。)です。
例を挙げると、学習塾や音楽教室の講師、メディアや芸能界で働く人、インストラクター、フリーライター、フリーカメラマン、訪問販売員、料理・日用品等商品の配送員、集金員などです。
そして、フリーランスに業務を委託する事業者であって、従業員を使用する者(企業等)をこの法律案では「特定業務委託事業者」(以下「委託業者」と言います。)としています。
また、この法律案で「業務委託」とは、委託業者がその事業のためにフリーランスに物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することを言います。
フリーランスは特定の委託業者への依存度が高く、その力関係から、口約束で仕事内容を決めざるを得ないことも多く、報酬の支払い遅延、一方的な仕事内容の変更、セクハラ・パワハラといったトラブルが生じ、不利な立場に置かれるケースが増加しています。
そのため、委託業者との取引の適正化、安定的に働くことのできる就業環境を整備する必要があり、この法律案が作成されました。その内容は以下のとおりです。
【取引の適正化】
・フリーランスの仕事の内容、報酬の額、納期等を、継続的業務委託の場合は、契約期間、終了事由、中途解約の際の費用等を書面又はメールで明示しなければならない。
・委託業者は、フリーランスの給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければならない。
・委託業者の禁止事項
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
- 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
- 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
- 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく仕事の内容を変更させ、又はやり直させること
【就業環境の整備】
・募集情報を提供するときは、虚偽の表示・誤解を生じさせる表示をしてはならないし、正確かつ最新の内容に保たなければならない。
・継続的業務委託の場合、育児介護等と両立して業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならない。
・ハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備の措置を講じなけばならない。
・継続的業務委託を中途解約・更新拒絶する場合には、終了事由を明示し、原則として、中途解約日等契約終了の30日前までに予告しなければならない。
【違反した場合等の対応】
・国は、違反行為について、必要があると認めるときは、委託業者に対し、報告を求め、立入検査をし、助言、指導、勧告、公表、命令をすることができる。
・委託業者が立入検査を拒否したり命令に違反した場合には、50万円以下の罰金を科す。
【国が行う相談対応等の取り組み】
・国は、上記取引の適正化及び就業環境の整備に資するため、相談対応等の必要な体制の整備等の措置を講ずる。
検討課題
以上が法律案の主な内容です。
この法律案を踏まえ、国会での審議に当たり検討すべき課題として考えられる事項は、
- 継続的業務委託の中途解約・更新拒絶について「正当な理由を必要とする」等の規制が必要です。
- 法律の履行を担保するための、さらに実効性ある体制や権限の強化が必要です。
- フリーランスによる行政機関に対する、委託業者の違反行為の申告、相談を理由とする不利益取扱を禁止することが必要です。
- フリーランスの中には、実態としては、本来労働基準法や労働組合法などの労働関係法令で守られるべき「労働者」が相当数含まれています。
ですから、この法律が制定されることにより、フリーランスの名のもとにこのような「労働者」の救済が否定されてはならない旨、明文化する必要があります。
そして、引き続き、労働実態を踏まえた労働関係法令の適用を受けるべき「労働者」の範囲の検討が行われるべきです。
- インボイス制度との関係は不明です。
以上