2022年12月28日

 テレワーク制度化の際の注意点

 弁護士 水口 匠

テレワーク導入の背景

2017年、政府は日本の社会や市場の変化に伴い、国民の労働参加率の向上を図る必要性を考慮し「働き方改革実行計画」を決定しました。

その基本的な考え方は、個人の意思や能力、または個人のおかれた環境に応じた、多様で柔軟な働き方を選択することが出来る社会を追求するというものでした。

その後、新型コロナウィルスが急速に拡大し、相当数の企業が従業員の感染予防を考慮して出社を控え、テレワーク(在宅勤務)を実施するようになり、これが職場内や通勤時の感染リスクを抑え、同時にワークライフバランスに資することにもつながると考えられるようになり、現在ではある程度定着してきています。

もっとも、テレワークは従来の事業場内での労働から、就業場所を変更させることになるため、これを制度として行う場合は、注意を要する点が生じます。 

テレワーク導入の際の注意点(就業規則の作成・変更)

それまで、事業場内での労働のみを行なってきた事業所が恒常的な制度としてテレワークを導入する場合には、就業場所について明示するため、就業規則に別途「在宅勤務規程」などを設けて、自宅を就業場所とすることがある旨を明記する必要が生じます。

規程内容の参考として、厚生労働省が「テレワークモデル就業規則」を紹介していますので、参照してみてください。

また、そうではない場合にも、従業員にテレワークをさせる可能性があるならば、雇い入れの際に、その旨を雇用契約書等に明示しておくとよいでしょう。

日常業務における労務管理の観点からの注意点

その他にも、日常の労務管理にあたり、注意を要する点がありますので、いくつか挙げておきます。

①労働時間

使用者には、労働者の労働時間を適正に把握する義務があります(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。

そして、当然、テレワークを導入している事業所においても、この義務は使用者に課されており、そのガイドラインも策定されています(厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」)。

このガイドラインでは、テレワーク時において、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録をとることや、やむを得ず自己申告制によって管理する場合にも、それが適正に行われるような体制づくりをしなければならないことが示されています。

②通勤手当

これまで事業場内での労働を原則としてきた事業所では、労働者に対し通勤手当を支給していることも多いと思います。
この通勤手当について、テレワークの導入とともに、変更することができるかという問題も生じます。

もともと通勤手当は、法律上、企業側に支給義務が生じるものではありませんが、賃金規程等に通勤手当を支給する旨の規定がある場合には、賃金の一部となり、支給義務が生じることとなります。
したがって、通勤手当を減額させることは、労働条件の不利益変更となります。

しかし、テレワークを導入する場合には、電車など公共交通機関の利用頻度が下がることになりますので、交通費の実費を負担するという趣旨で支給していた通勤手当を引き続き支給することは使用者にとっては支払いすぎになります。
したがって、通勤手当に関する変更は、必要性があり、変更の内容も相当と評価できるのではないかと思います。

厚生労働省が公表しているテレワーク就業規則モデルにおいても、通勤手当について、「通勤の頻度によって通勤手当を見直すことはあり得」る旨の指摘がされています。

ただし、労働条件の不利益変更であるため、変更にあたっては、変更後の規定を周知させること、従業員に変更の必要性や変更後の内容の相当性などを十分に説明するなどの適正な手続は必要になります(労働契約法10条)。

③設備費、通信費、光熱費等の負担

テレワークを行うにあたっては、デスク等の設備や通信費、情報通信機器に要する費用、光熱費等が発生することになります。
会社に出社していれば会社負担であることが通常ですが、在宅勤務になることで、このような費用を労働者の負担とすることはできるでしょうか。

この点、法律では、「労働者に・・・作業用品その他の負担をさせる場合」には、その旨の就業規則を作成しなければならないと規定されています(労働基準法89条5号)。 

したがって、これらの負担を労働者に追わせるためには、その旨の規定を定めることになりますが、そのような規定も就業規則の不利益変更となるため、変更の必要性や不利益の程度、代償措置等を検討しなければなりません。

もっとも、実際上、在宅勤務の際に使用するインターネット使用料や、携帯電話代などは、会社が機器を貸与するなどしない限り、個人の使用と業務上での使用とを明確に分けることは困難ですし、光熱費についても同様です。

そうすると、新たに規定を設ける際には、代償措置として在宅勤務手当の支給などを考えていく必要があるかもしれません。

まとめ

このように、テレワークは、新しい働き方として一定の必要性や合理性が認められるため、今後も業務内容によってはより定着していくことでしょう。
しかし、その実施にあたっては、労務管理者として十分に配慮していく必要があることも忘れてはいけません。

 

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