2022年11月30日

差押えの範囲変更の申立て

 弁護士 河原﨑友太

はじめに

判決や和解,公正証書等で金銭の支払いを命じられ,あるいは支払いを約束したにも関わらずその支払いが滞った場合,給与債権や預金債権などに対して強制執行を受ける可能性があります。

支払い義務がある以上,債務者は強制執行を受ける前に任意に支払いをすべきですが,他方で,生活保護受給者の方やあるいはこれに準ずる方など,経済的な事情によりどうしても支払いができない方もいらっしゃいます。

今回は,生活保護受給者の方が強制執行を受けた場合の対応についてご説明します。

生活保護費(受給権)そのものは差押え禁止

債務名義(※)を有する債権者は,債務者の財産に対して強制執行を行うことができます。
差押えの対象として代表的なものとして,不動産,自動車,預金債権,給与債権などがあげられます。

例えば,債権者が,『被告(債務者)は,原告(債権者)に対して●●万円を支払え』という債務名義を有している場合,債権者は債務者の預金口座を差押え,預金残高から強制的に回収し,あるいは,債務者の給与を差押え,債務者の勤め先を通じて債務者の給与から回収することができます。

このように,原則として債務者の財産であれば差押えの対象になりますが,他方で,債務者の財産でありながら,差押えを行うことが認められていないものもあります。

年金の受給権や児童手当の受給権,あるいは,日常生活に不可欠な衣類や家具等がその代表例で,生活保護費(正確には,生活保護給付金の受給権)もここに含まれます。

したがって,債務者が生活保護受給者である場合,生活保護給付金の受給権を差押えて回収することはできません。 

生活保護費を銀行口座で受領した場合

では,生活保護費が債務者名義の口座に送金された場合にはどうでしょうか。

生活保護費が債務者名義の口座に振り込まれた場合,送金された時点で生活保護費を受ける権利から金融機関に対する預金債権に性質が変わります。
預金債権に対する差押えは禁止されていないため,理屈上では,当該預金債権は差押えの対象ということになります。

そのため,生活保護受給者の方であっても,預金口座に対して差押えされるという事態が生じる可能性があります(ただし,差押えを受けた預貯金の原資がすべて生活保護費である場合には,生活保護法第58条のいうところの「既に給与を受けた保護金品」に該当するでしょうから,差押禁止財産と考えることになると思います。)。 

生活保護受給者の預金口座が差し押さえられたら

預金口座の差押えを受けた場合,当然のことながら預金口座からの引き出しはできません。
したがって,当面の生活にすら困るという事態に陥ってしまいます。

このような場合,差押を受けた債務者は,裁判所に対して差押えの範囲変更の申立てという手続きを行うことができます。
簡単に言えば,当該差押えを受けたことにより,到底生活を維持することができないことを理由として,差押の範囲を減縮し,あるいは差押えの全部を取り消してもらう制度です。

申立てにあたっては,生活保護受給者であることや,当該預金債権の原資が生活保護費であること,これが差し押さえられた場合には生活ができないことなどの事情を説明して裁判所の理解を得る必要があります。

差押えの範囲変更申立てが認められたら

申立てが認められた場合,差押えが解除されて預金が戻されることになります。

ただし,その場合であっても,いつ再び差押えされるかは分からない不安定な状態にあると御考え下さい。
上記手続きを繰り返すことは債務者だけでなく,債権者にとっても生産性がありませんので,このような場合には,速やかに弁護士へ相談し,自己破産の手続きを取るようにしましょう。

以上

 

※『債務名義』…強制執行を申し立てる際に必要となる書類。確定判決が代表例。

 

 

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