2022年4月30日

民事調停委員を退任して

弁護士  堀   哲 郎

はじめに

2022年3月31日をもって,裁判所(さいたま地方裁判所,さいたま簡易裁判所)の民事調停委員を退任しました。
2006年4月に就任して以来16年が経過したわけですが,私自身の感覚としては,あっという間の16年でした。

この間,建築紛争,土地境界紛争,相隣関係,共有物分割,借地借家,契約上のトラブル,医療過誤,交通事故,労働問題,その他ありとあらゆる民事紛争に調停委員として関わってきました。

調停委員会を構成する民事調停官(裁判官)や相調停委員(紛争類型に応じた専門家委員(例えば,建築紛争事件における1級建築士,医療過誤事件における医師,借地借家事件における不動産鑑定士,労働事件における社会保険労務士,交通事故事件における元調査事務所職員ないし元保険会社調査員など))からは多くのことを学び,また,教訓を得ることもできました。

民事調停における教訓

「悪意」という言葉

ある民事調停で,「悪意」という言葉が問題となったことがあります。

事案は土地境界紛争に関するもので,申立人(弁護士が代理人として就いていました。)から,申立書にて,相手方による土地の占有は悪意であるから(10年の)時効取得は成立しない旨の主張がなされました。

これに対し,相手方(本人)から,答弁書にて,「悪意」だなどとんでもない言いがかりだという趣旨の,怒りに充ちた反論がなされ,結果,話合いによる紛争解決を困難なものにし,無用に紛争を長引かせたということがありました。

調停委員としては,この場合の「悪意」の意味について,後述のとおり丁寧に説明し,相手方の誤解を解くことに尽力することになった次第です。

法律上における「悪意」の意味

社会一般で私たちが日常生活上使う「悪意」とは,「他人に害を与えようとする心」を意味するとされています(ちなみに,「善意」とは,「善良な心」ないしは「他人のためを思う心」を意味するのが一般的です。)。

これに対し,法律用語で「善意」とは一定の事実を知らないことであり,「悪意」とは一定の事実を知っていることです。
すなわち,法学上の善意・悪意は,倫理的意味をもつものではなく,一定の事実についての知・不知という心理状態(内心的事実)をあらわしているにすぎないのです。

(ちなみに,民法上,善意・悪意の関係条文は相当数あります。列挙すれば,

§703
,§704(不当利得の返還義務),§189(善意の占有者による果実の取得等),§190(悪意の占有者による果実の返還等),§321,2(失踪宣告の取消し),§963(詐欺又は強迫による取消し),旧§112(旧§109,旧§110)(表見代理),§192(即時取得),§478(受領権者としての外観を有する者に対する弁済)

などです。)

肝に銘ずべきこと

このように,法律用語には,同じ言葉であっても,日常生活上の用語と意味が異なる場合があるのですが,こうした誤解が原因で,前記に掲げた例のごとく,無用の争いを引き起こしたり,あるいは解決が困難になったり,紛争を長引かせたりすることがあるのです。

以上,肝に銘ずべき教訓のひとつとなりました。

現代語化にあたって

なお,2004年12月,表記の現代語化(条文がわかりやすい口語体で表記されるとともに,平易な文体が採用されました。)と保証制度の見直しを柱とする民法の改正法が公布され,翌2005年4月に施行されましたが,上記「善意」,「悪意」という法律用語の表記は,表見代理の規定を除き,従来のままとなっています。

以上

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