2021年10月29日

債務者の財産はどこ? ~財産開示手続と情報取得手続について~

 日常の訴訟や調停等の手続のなかで、「債務者(金銭の支払義務がある人)は債権者(金銭を支払うよう請求する権利がある人)に対して、●万円を支払え」という判決を取得したり、「債務者は、養育費として月●万円を支払う」といった合意が調停で成立することは多々あります。
 判決や合意した内容どおりに、債務者がお金を支払ってくれれば何の問題もありませんが、問題なのは、

「債務者がお金を支払えという判決をもらったのに、債務者がいまだにお金を払わない」とか、
「養育費を毎月払ってもらっていたのに、途中から払ってもらえなくなった」という場合です。

 このような場合、債権者側で債務者の財産を差し押さえる等して、強制的にお金を回収しなければなりません。
 しかし、債務者の財産にどのようなものがあるかを債権者が把握するのが難しく、結局、債権者が泣き寝入りをするケースも多々あるのが現状です。

 このような状況を踏まえ、改正民事執行法が令和2年4月1日から施行され、これまでの財産開示手続を、より実効性のある制度にするように制度の見直しがされたことに加え、第三者から債務者の財産の情報を開示してもらう情報取得手続が新設されました。
 今回のブログでは、どのような改正がされ、どのような制度が新設されたのかをご紹介したいと思います。

 

財産開示を申立てることが出来る人の範囲の拡大

 財産開示手続とは、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続で、債務者が裁判所に出頭し、自身の財産状況を開示する手続です。

  この手続を申し立てることができる人の範囲について、法改正によって、つぎのように範囲が拡大されました。

改正前 改正後
 確定判決  左欄に加えて、以下の場合も申立可に

 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判 ex:家事審判等

 仮執行宣言付判決
 訴訟費用額・執行費用額の確定処分  仮執行宣言付損害賠償命令
 確定した執行判決のある外国判決  仮執行宣言付届出債権支払命令
 確定した執行決定のある仲裁判断  仮執行宣言付支払督促

 確定判決と同一の効力を有するもの

 ex:和解調書、調停調書等

 執行証書

  上記の申立権者の範囲の拡大のうち、執行証書による財産開示の申立てが可能となったという点が、一番身近に意義をもつものといえるかもしれません。

 というのも、例えば、ある金銭についての支払や、養育費の支払等を公正証書によって定めた場合にも、財産開示の申立てをおこなうことが可能となったということだからです。(※公正証書については、沼尻弁護士のブログ「公正証書について」 もご覧ください)

 

財産開示の拒否、虚偽事項を開示した場合の罰則を強化

 財産開示手続を申し立てると、財産開示をおこなう日を裁判所が指定し、この日に裁判所に出頭するよう、債務者に通知がされます。また、債務者は指定された期限までに自身のもつ財産を記載した財産目録を提出しなければなりません。

 債務者が、財産目録を提出したり、財産開示の期日に出席するように、これまでは、呼び出しを受けても財産開示期日に出頭しなかった場合や、正当な理由なく財産開示を拒む場合には、30万円以下の過料という罰則が設けられていました。

 しかし、このような罰則では、財産開示の手続を遵守しない債務者への十分な制裁とならず、結局、債務者が財産開示手続をすっぽかし、このため財産開示手続の利用実績が低くなっているという状態が続いていました。

 そのため、改正法では、罰則を6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金とすることで罰則が強化されました。
 これまでの「過料」とは行政上の罰であり、刑事上の処分ではありませんが、「罰金」は刑事罰ですから前科がつくことにもなります。そのため、「単に金額が上がっただけ」と捉えるのは正確でなく、これまで以上に債務者を手続に遵守させる効果をもたせるものと考えられます。

 

情報取得手続の新設

 上記のような財産開示制度によっても、結局、債務者が財産開示期日に出てこなかったり、自身の財産を開示しなかったりした場合、債務者が罰則を受けても、債権者側は相変わらずお金を回収することができず、債務者の財産にどのようなものがあるかも分からない状態だけが残ってしまいます。

 そこで、民事執行法改正により、債務者の保有する財産について、第三者から情報を取得する情報取得手続が新設されました。

 この制度が設けられた趣旨が、債務者の財産が把握できないために債権を回収できず泣き寝入りせざるを得ない事態に対応するということにあることから、この手続を申し立てるには、
①先行して強制執行手続をおこなったものの、債権の全部について回収できなかった場合や、
②債務者の財産を調査しても、債権を回収できるだけの財産が見当たらない、または財産の所在が全く把握できないといった状態

であることが必要となります。

 

★不動産に関する情報取得手続

(概要)

 債務者の不動産に関する情報を、東京法務局から提供してもらうよう求める手続です。
 ここで提供される情報とは、債務者が所有権の登記名義人である土地や建物等の存否、土地や建物等を特定する事項(所在地や家屋番号)を言います。

(注意点)

 不動産の情報取得手続をおこなうには、上記に述べた財産開示手続を経る必要があります。
 これは、債務者がどのような不動産を所有しているかはプライバシー事項にあたるため、まず財産開示の申立てをおこない、そこで裁判所から財産開示の決定を得ることではじめて、債務者が債権者に対して財産についての情報を秘匿する正当な利益を失ったと考えられることになるためです。

★預貯金等に関する情報取得手続

(概要)

 銀行等から、債務者の預貯金債権の有無、預貯金を扱う店舗、種別、口座番号、残高といった預貯金等に関する情報の開示を受ける手続です。

(注意点)

預貯金等に関する情報取得手続では、不動産に関する情報取得手続と異なり、財産開示手続を経る必要はありません。

 財産開示手続を経なければならないとすると、裁判所から債務者に呼び出しの通知等が送られるところ、それらの通知を受け取った債務者が、債権者側の動き(差押え等でお金を回収しようとしていること)を察知し、預貯金口座から現金を払い戻してしまうおそれが十分考えられます。そのため、預貯金等に関する情報取得手続では、財産開示手続を先行するのは不要とされています

預貯金等に関する情報取得手続によって、第三者から情報が提供されると、その後裁判所から債務者宛に情報提供がなされたとの通知がされます。

 そのため、預貯金等の情報取得手続をおこなうにあたっては、債務者が保有していると考えられる金融機関宛てに一度に手続をおこなう必要があります。最初にA銀行、その後にB銀行の順番で情報取得の手続をおこなうと、A銀行について情報提供がなされたという通知を債務者が受け取った後、B銀行に保有する預貯金の払い戻しをしてしまうおそれがあるからです。

★給与に関する情報取得手続

(概要)

 市町村や厚生年金保険の実施機関等を第三者として、その第三者から、債務者の給与に関する情報、具体的には給与、賞与の支払いをする者の存否、その支払いをする者の氏名、名称、所在地といった情報の開示を受ける手続です。

(注意点)

不動産に係る情報取得手続の場合と同様に、情報取得手続の前に財産開示手続を経る必要があります。

給与に関する情報取得手続を申し立てられる人は、以下の場合に限定されています。

 

①養育費や婚姻費用等の扶養義務等に係る請求権について、執行力のある債務名義(判決、審判、公正証書等)を有する債権者

 ②人の生命もしくは身体の侵害による損害賠償請求権について、執行力のある債務名義を有する債権者

 つまり、「貸したお金を返せ」「交通事故にあって、けがはなかったものの、車を直す修理費を払え」といった請求権をもつ債権者は、給与の情報取得手続をおこなうことができません。

 給与は、債務者にとっても生活の糧となる重要なものであるため、情報取得手通津kいをおこなえる人の範囲を限定しようという制度趣旨があります。

 さいごに

 財産開示手続や情報取得手続をおこなうにあたっては、あらかじめ債権者が、債務者の有する財産の調査をおこなったものの、それでもなお財産が把握できないといった財産調査報告書を準備する必要があったり、また、事案によっては、今回紹介した各手続ではなく、弁護士照会という、弁護士会から各機関に対して照会手続をおこなう方が妥当なケースも考えられます。

  そのため、まずは一度、お気軽に当事務所にご相談いただければと思います。

 

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