2021年9月30日

後遺障害による逸失利益と基礎収入

弁護士 近藤永久

後遺障害による逸失利益と基礎収入

交通事故等で怪我をし,後遺障害が残ると,事故前と同じ働き方ができなくなってしまうことがあります。
このような場合,たんに仕事上不便であるというだけでなく,被害者は将来にわたり,減収のリスクを負うことになります。

逸失利益とは,後遺障害による将来の減収リスクを金銭的に評価したものです。

逸失利益の算定は,「①基礎収入×②労働能力喪失率×③労働能力喪失期間」という計算式を用いるのですが,今回は,考慮要素の1つである「基礎収入」について解説します。

基礎収入とは

基礎収入とは,事故がなければ得られたであろう被害者の収入のことです。

原則は事故前年の年収が基準となりますが,具体的事情によっては,原則を修正し,事案に応じて適正な年収額を算定する必要があります。

以下では,特にご相談が多いケースについて,基本的な考え方をご紹介します。

1 会社員の場合

■原則

会社員の場合,原則として,事故前年の年収が基礎収入となります。資料としては,事故前年の源泉徴収票があれば足りるでしょう。

■例外

ただし,何らかの事情で事故前年の年収が極端に低い場合など,原則どおりだと被害者に不利になるケースもあります。

このような場合には,原則を修正し,賃金センサス等を用いて適正な年収額を算定する必要がありますが,ここで注意しなければならないのは,原則を修正すべき事情や,適正な年収額がいくらになるのか等の具体的事情については,「被害者が」主張立証しなければならない,という点です。

何の根拠もなく「前年の年収だと低すぎる」と主張しても認められませんので,被害者としては,自分の主張を裏付ける資料を集める必要があります。

例えば,給与体系上年収の変動が大きく,たまたま事故前年の年収が低かったというケースでは,事故前数年分の源泉徴収票を提出したうえで,その平均値を基礎収入とすべき,と主張することが考えられます。

■なお,兼業主婦(主夫)のケースについては,以下の4「主婦(主夫)の場合」をご参照ください。

2 会社役員の場合

■原則

会社役員の場合,労務対価部分(労務提供の対価と評価できる部分)は基礎収入になりますが,利益配当部分(資本の対価ないし実質的に利益配当の性質を持つ部分)は基礎収入になりません。
これは,利益配当部分は,後遺障害による影響を受けないと考えられているためです。

■注意点など

労務対価部分と利益配当部分の切り分け(役員報酬のうち何割が労務対価部分といえるか)は,役員報酬の算定方法,事故の前と後で役員報酬にどの程度増減があるか,会社の規模,役員の具体的な担当業務の内容など,様々な事情を総合考慮したうえで判断されます。
そのため,被害者としては,このような具体的な事情について,1つ1つ丁寧に主張・立証していく必要があります。

3 自営業者の場合

■原則

・自営業者の場合も,原則として,事故前年の年収が基礎収入になります。
なお,会社員の場合と同じように,何らかの事情により事故前年の年収が極端に低い場合には,被害者が原則を修正すべき事情を具体的に主張立証することができれば,賃金センサス等を用いて算定した年収額が基礎収入として認められることもあります。

芸能人やプロのスポーツ選手などのように,収入の変動が激しく,事故時の職業に従事し続けるとは限らないような職業の場合には,統計や経験則に基づき,一定期間経過後については賃金センサスの平均賃金等を基礎収入とする場合があります。

■注意点など

自営業者の場合の収入資料は,基本的には事故前年の確定申告書類の控えです(※税務署の受付日付印があるもの。日付印がない場合には,納税証明書や課税証明書が必要になります)。

申告外の所得があると主張しても,簡単には認められませんので注意が必要です(なお,事故後に修正申告を行ったとしても,当然にその申告どおりの収入が基礎収入と認定されるわけではありません)。

申告外の所得があると主張する場合,申告書類との間に齟齬があるわけですから,売上についても経費についても,1つ1つ信用性の高い証拠によって証明していかなければなりません(手控えのメモ等では足りず,契約書や領収書,伝票などの証拠が必要になります)。

4 主婦(主夫)の場合

■原則

事故前に家族のために日常的に家事労働を行っていた場合,賃金センサス原則として女性労働者の全年齢平均)に基づき基礎収入を算出します。

もっとも,以下のとおり,被害者の性別や年齢等によって,家事労働の内容についてどの程度具体的に主張・立証する必要があるか,賃金センサスのどの数字を用いるか等について,一定の傾向がみられます。

■主夫の場合

実務上,被害者が主夫である場合には,被害者が主婦の場合に比べて,家事従事者該当性や,具体的な家事従事状況等について,より具体的な主張立証を求められることが多いです(主婦の場合には,同居家族がいることを証明しさえすれば,家事従事者性が問題とされるケースは多くない印象です)。

従って,被害者が男性の場合には,このような傾向をふまえ,従事していた家事の内容を具体的に主張していくことが重要になります。

■高齢(65歳以上)の場合

被害者が高齢(65歳以上を想定しています)の場合,裁判例は,①高齢である=家事労働の内容が壮年期とは異なるとして,逸失利益を少なめに認定するものと,②家事労働は年齢により違いが生じるものではないとして,通常どおり逸失利益を認定するものに分かれています。

①の考え方では,賃金センサスのうち女性労働者の「全年齢」平均賃金ではなく,「年齢別」平均賃金を数字として用います。
高齢の場合,「年齢別」平均賃金<「全年齢」平均賃金ですから,①の考えによれば,結果として,認定される逸失利益が少なくなってしまいます。

高齢の被害者の場合には,年齢を理由に不用意に基礎収入(ないし逸失利益)を減額されることがないよう,家族構成や実際に行っていた家事の内容等を,具体的に主張・立証していく必要があります。

■兼業主婦(主夫)の場合

兼業主婦(主夫)の場合,現実収入額と女性労働者全年齢平均賃金を比較し,どちらか高い方が基礎収入となります。

5 未就労の年少者の場合

■未就労の年少者の場合,原則として,賃金センサスの「学歴計・男女別全年齢平均賃金」に基づき,基礎収入を算定します(ただし,実務上,年少女子については,男女別ではなく,「男女計」の平均賃金を基礎収入としています)。

■もっとも,被害者の家庭の状況や被害者本人の希望・成績,専門教育を受けているか否か等の個別事情を考慮し,上記原則を修正することもあります。
具体的には,学歴計ではなく「学歴別」平均賃金を基礎収入としたり,産業計ではなく「職業別」平均賃金を基礎収入とした例があります。

※なお,どの時点の賃金センサスを用いるか,考え方はいくつかありますが(事故時基準か,症状固定時基準かなど),実務上は症状固定時の賃金センサスを用いることが多いように思われます。

 

おわりに

逸失利益は将来のリスクを評価するものであり,フィクション的な側面があるため,どのように算定するのが適正なのか,判断が難しいケースも少なくありません。

不適切な算定方法によって不利益を被ることがないように,事故等で後遺障害が残ってしまった場合には,法律相談をされてみることをおすすめします。

以上

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