2021年7月30日

雇用契約によらない多様な働き方

弁護士 鈴木 幸子

はじめに

 昨今のコロナ禍により,私たちの社会生活の様々な問題点があぶり出されています。
 その中でも今回は、「雇用契約によらない多様な働き方」の問題点を取り上げます。

契約当事者間の力関係

 「雇用契約によらない多様な働き方」で仕事に従事し,その仕事のみで生活の糧を得てきた多くの人たちが,コロナ禍により,仕事を失ったり,仕事が激減したりして,困窮を極め,不安な生活を送っているということが、メディアにおいても取り上げられています。このような問題は、もともと、仕事の受注基盤がぜい弱なうえに、対価も低く設定されていることが要因の一つとして考えられます。
 特に,対面型のフリーランス(学習塾や英語教室の講師,メディアや芸能界で働く人,訪日外国人観光客対応の通訳ガイド,インストラクター,フリーライター,アニメーター,在宅介護・保育,訪問販売員,料理・日用品等商品の配送員,買い物代行,集金員等)や現場仕事の一人親方において、この傾向が顕著と言えます。
 これらの仕事の受注形態は請負だったり業務委託だったりしますが、受注者がどうしても発注者より交渉力において弱い立場にあることや、対等な交渉力を有していないことに起因し、発注者からの一方的な契約内容となったり、口約束で受注を受けたりというケースも多々見受けられます。

 このような状況は、発注者にとっては、受注者を個人事業主として扱い、使用者責任や社会保険・雇用保険の負担を免れ、容易に発注を打ち切ることもできる、都合の良い存在として考える温床ともなっていると考えられます。
 例えば、コロナに感染した場合を例にとると、雇用契約による場合は,労基法上の法的保護を受けることが可能となります。まず、コロナに感染したことで発熱等の症状が生じ、労働者が自主的に休む場合や、都道府県知事がおこなう就業制限により労働者が休業する場合、一般的には「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられるため、休業手当は支払われないケースが多いと考えらえます。
 しかし、発熱等の症状があるという理由だけで、労働者に一律に仕事を休ませる場合等は、休養手当の支払が必要となる例として挙げられており、その場合、平均賃金(休業した日以前3か月間にその労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した額)の100分の6以上の額の休業手当の支給が必要となります。

 また業務中あるいは通勤時に感染した場合には労災保険から直前3ヶ月間の平均賃金の80%が,業務感染でも健康保険から平均賃金の3分の2の傷病手当金が支給されます(※1)
 また,失業した場合には,雇用保険から失業保険が支給されます。
 これに対し,「雇用契約によらない多様な働き方」では、形式的には、個人事業主として扱われるため、上記のような保護はいずれも受けられないこととなります

整備されている救済策について

 国や自治体は,コロナ禍における特別な救済策として,給付金制度(個人事業主給付金,フリーランスに対する給付金,芸術関係フリーランス対象の給付金,住居確保給付金,子育て世帯生活支援特別給付金等),貸付制度(生活福祉資金,緊急小口資金,総合支援資金),税金の納付の猶予,医療・介護保険料の減免,公共料金の支払期限の延長,休職者支援制度等の対策を講じています。
 これらの救済策を最大限活用したうえで,最後のセーフティネットとして生活保護制度も躊躇なく利用して何とか乗り切ることができたら,と切に願うばかりです。


 加えて、各金融機関も無担保・無利子・返済開始の先延ばし,住宅ローンの返済猶予等の救済制度を打ち出しています。これらの救済制度は,要件・内容・期限等の見直しが事態に応じて頻繁に行われているので,取扱窓口(福祉課,社会福祉協議会,保険年金課,税務署等)に確認する必要があるかと思います。

抜本的な解決策

 しかし,より根本的には,この機会に「雇用契約によらない働き方」で仕事に従事し,その仕事のみで生活の糧を得る人と発注者との間の契約ルールの法的整備こそが必要と考えられます。

 契約当事者間に力関係があると,対価の未払いやハラスメントが生じる可能性もより高くなると考えられるため,より法的な保護が必要といえるでしょう。コロナ禍により、インターネットによる仲介を通じて仕事を受注する形態の働き方が身近になりましたが、コロナが落ち着いた後も,このような働き方が増加することは十分に予想されることも考えれば,法的整備は喫緊の課題といえます。

 また,労働基準法が適用される「労働者」に該当するか否かを、契約の形式ではなく,働く実態で判断すべきと考えられます。
 すなわち,他人に労働力を売り渡し,その対価のみで生活せざるを得ない,かつ,労働力の提供を受ける側の労働条件の一方的決定を甘受せざるを得ない立場にある者は,労働基準法が適用される「労働者」であるとして,労働時間や賃金に関する規制の適用や社会保険・雇用保険への加入を求める,さらには直接雇用を求めることも必要と考えられます。
 発注者との対等な交渉力を有するためには,同じ立場の人たちと労働組合を結成したり,一人でも加入できるユニオンに加入するなどして団体交渉を行う方法があります。現に、英語教室のフリーランスの講師(教室側の指示でシフトや授業内容が決められていた)が同僚と労働組合を結成し,団体交渉の結果,上記の成果を勝ち取った例やウーバーイーツの配送員が労働組合を結成した例等もあります。

 

※1 コロナウィルスに感染した場合の労災保険給付及び傷病手当金の支給には要件がありますので、詳細は厚生労働省HP等をご確認ください
参照:厚生労働省 労災保険給付リーフレット厚生労働省 傷病手当金等給付リーフレット

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