2021年6月30日

民事調停

弁護士  堀   哲 郎

はじめに

2006年4月に裁判所(地方裁判所,簡易裁判所)の民事調停委員に就任して早15年が経過しました。

この間,担当した事件は,正確な数字ではありませんが,年平均4~5件として70件くらいになるでしょうか(意外に少ないと思われるかもしれませんが,最近は裁判所への申立件数そのものが減少傾向にあるようで,この点は,家庭裁判所での家事調停(離婚,子の親権,養育費,財産分与,遺産分割etc.)とは事情が大きく異なっています。)。

普段は弁護士として,一方当事者の代理人となって活動していますが,調停委員として調停に臨むときは,公平・中立的な立場に身を置くことになります。

以下,民事調停委員としての経験を踏まえ,民事調停について述べてみたいと思います。

民事調停のススメ

民事調停の特質(メリット)

①民事調停の特質として,私が第一に挙げたいのは,何といっても弁護士に依頼しなくても自分(本人)で申し立てて十分対応が可能であるということです。

裁判所が最終的に判決という形で,証拠に基づき白黒決着をつける訴訟(いわゆる裁判)と異なり,民事調停は,あくまでも話し合いによる紛争解決をめざすもので,訴訟のように厳格な証拠法則が適用されるわけではないからです(したがって,手続に関する専門的知識は不要です。)。

また,裁判所には紛争類型に応じて申立書の定型書式も用意されていますので,申立自体も容易です(なお,管轄は,農事調停等特殊な調停を除き,相手方の住所地を管轄する簡易裁判所になります。)。

もちろん,弁護士に依頼したほうがそれなりにメリットはありますが(例えば,必ずしも期日に出頭しなければならないということはありません。なお,調停が不成立になった後の訴訟を視野に入れている場合には,調停の段階から弁護士に依頼することをお勧めします。),法テラス(日本司法支援センター)の援助制度があるとはいえ(一定の資力要件を充たす必要があります。),費用対効果を考えると躊躇せざるを得ないのではないでしょうか。

②民事調停の特質の第二は,紛争類型の多彩さと解決方法の柔軟性にあります。

この点,裁判所も事件の類型に応じて専門の調停委員を配置するようにしています。
すなわち,民事調停においては,一つの事件につき,2名の調停委員(住民紛争等当事者が多数の場合には例外的に3名の調停委員で臨むこともあります。)と1名の民事調停官(裁判官)で調停委員会を構成し,紛争解決にあたることになりますが(民事調停官(裁判官)は多くの事件をかけもちしていますので,普段は2名の調停委員で対応します。),通常,2名の調停委員のうち1名は弁護士,他の1名はその紛争類型に応じた専門家が担当することになります。

例えば,建築紛争事件における1級建築士,医療過誤事件における医師,借地借家事件における不動産鑑定士,労働事件における社会保険労務士,交通事故事件における元調査事務所職員ないし元保険会社調査員などです。
この他,元裁判所書記官や元検察事務官もいます。

このように,民事調停では,紛争類型ごとに専門家の調停委員が加わりますので,中身の濃い話し合いが可能ですし,柔軟な解決策を見出すことも可能です。
また,費用(印紙代)も訴訟の半分で済みますし,もちろん時間も訴訟に比較し短くて済みます。

民事調停の限界(デメリット)

前記のとおり,裁判所が最終的に判決という形で,証拠に基づき白黒決着をつける訴訟(厳格な証拠法則が適用されます。)と異なり,民事調停は,あくまでも話し合いによる紛争解決をめざすもので,この点では家事調停と同様です(もっとも,家事調停の種類によっては裁判所が最終的に判断を下す審判に移行するものもあります。)。

したがって,当事者双方が互いに譲り合って合意に達しないかぎり,調停は不成立とならざるを得ません。

この辺りが,民事調停の限界といえます(全くの個人的感覚ですが,これまで私が担当した事件の半数近くは不成立に終わったように思います。)。

民事調停に適しているケース

では,どのようなケースが民事調停に適しているといえるでしょうか。

一つには,上記のことから,厳格な証拠法則が適用される訴訟だと敗訴する可能性が高い事案,換言すれば,立証責任を負っているにもかかわらず,証拠が不十分な場合が挙げられます。

もう一つは,近隣紛争のように双方当事者が日常的に接する機会を有しているような場合です。
この場合には,裁判所への申立であっても,あくまでも話し合いによる解決を求めているのだということを相手方に理解してもらうことが特に重要です。

いずれにせよ,紛争類型は多種多様ですから,どのような紛争解決方法が妥当かについては,まずは弁護士に相談することをお勧めします。
相談のみであれば費用はそんなにかかりませんし,弁護士会,法テラス,各自治体では,無料の法律相談も受け付けています。

おわりに

以上のとおり,民事調停には,早期に柔軟な解決を望め,しかも,費用も安くて済むという,訴訟に勝る大きなメリットがあることから,前述した限界はありますが,もっともっと利用されてもいい制度ではないでしょうか。

以 上

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