2021年4月30日

試用期間は「お試し期間」か?

 弁護士 水口 匠

試用期間とは

多くの会社では,新入社員の入社後一定期間を試用期間として,その間に新入社員を評価して本採用をするかどうか決めるということをしていると思います。

この試用期間は,一般的に「解約権留保付労働契約」であると考えられています。
試用期間中であれば,使用者に,その仕事について労働者の不適格性を理由とする労働契約の解約権が留保されているというわけです。
つまり,使用者と労働者との間で労働契約は成立していますが,試用期間中であれば,その労働者の勤務状態などにより,能力や適格性が判定され,雇用を継続することが適当でないと判断された場合には,解雇または本採用拒否という方法をとることができるということなります。

試用期間中の本採用拒否・解雇は簡単にできるか

では,この解雇や本採用拒否をするにあたって行う,能力や適格性の判定というのは,どのような基準によってなされるのでしょうか。

これについてはかなり昔の判例があります。

裁判所は,
解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由が存在し,社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるとし,

その場合というのは,
「企業側が採用決定後における調査の結果や試用中の勤務状態によって,当然知ることができず,また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において,そのような事実に照らし,その者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に相当であると認められる場合」と言っています。

要するに,採用時に分からなかった事実が発覚して,もしそんな事実が最初から分かっていれば,その人を採用することなど考えられない,一般的な観点からしても採用にはならなかっただろうと言えるような場合ということです。

この基準は,通常の解雇に比べれば広く本採用拒否などが認められるとしても,実際の現場において用いようとすると,かなり厳しいものといえます。
例えば,新入社員の能力が,企業側が期待していたレベルよりも劣っていた,あるいは仕事に対する態度が企業側の目から見て気に入らないといった程度の理由では,試用期間中であるからと言って本採用拒否などをすることはできません。

このような場合,「その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが解約権留保の趣旨,目的に徴して客観的に相当」とは評価されないのです。

業務不適格や勤務成績不良については,やる気がなく,上司の指示に従わず,協調性にも乏しいことなどを理由として解雇を有効とした例もありますが,他方,試用期間中に多少その従業員に責められるべき事実があったとしても,企業側には合理的な範囲内においてその従業員に対する教育を行うべき義務が認められるため,安易に本採用拒否などは認められないのです。

その他,経歴や学歴の詐称については,裁判例上,本採用拒否や解雇を認めないものも認めたものもありますが,傾向としては認めないものの方が多いといえます。
その業務を行うにあたって必要となる資格や経験の有無を偽るなど,重大な場合には解雇も可能でしょうが,重大でない場合には,詐称であってもその一事をもって解雇等を行うことはできないと考えた方がよいでしょう。

会社の業績不振を理由とする本採用拒否も認められません。
整理解雇の要件を満たす必要があります。

このように,試用期間だからといって,その従業員を採用し労働契約を結んだ以上,安易に辞めさせることは法律上認められていません。
したがって,試用期間であっても,「お試し期間」ということにはならないのです。

新入社員の採用については慎重に行い,いったん採用したら,その能力や適格性は根気よく教育していくという覚悟が企業側に求められることになります。

その他試用期間について注意するべきこと

① 試用期間の長さは,必要な合理的範囲のものでなければなりません。
具体的にどの程度の期間が適切かについては業務によっても異なりますが,概ね3か月程度であれば合理的範囲と評価されるでしょう。

また,試用期間の更新や延長は原則として認められていませんが,新たに出てきた事情により試用期間中にその適格性を判断しえなかったとか,本採用を拒否できる事由がある場合にそれを猶予するためなど,合理的理由がある場合には認められる余地があります。
ただし,延長する期間については,延長前に相当な期間があらかじめ告知されていることが必要です。

② 試用期間が始まってから14日を超えて使用されている労働者に対して解雇や本採用拒否をする場合には,30日前に解雇予告をするか,30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。
つまり,通常の解雇と同じ手続が経る必要があるということです。
試用期間中だからといって,突然解雇することは手続上認められません。

 

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