2020年6月30日

配偶者居住権

弁護士 水口 匠  

今年の4月1日に,改正された民法の相続法が施行され,新たに配偶者居住権が認められることになりましたので,その概要について説明します。(なお,その他にも相続法は多くの改正がありましたが,その中には4月1日以前に施行されているものもあります)。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは,被相続人の配偶者が,相続開始の時に被相続人が所有する建物に居住していた場合において,一定の条件が認められれば,原則として終身の間,配偶者がその建物に無償で居住(使用収益)できる権利のことです。

このほか,配偶者が被相続人所有の建物に,相続開始から遺産分割の確定までの間の比較的短期間,無償で住み続けることができるという配偶者短期居住権という権利も認められることになりました。

なお,配偶者居住権が認められるのは,施行日である令和2年4月1日以降に相続が発生した場合(被相続人が死亡した場合)に限られます。
令和2331日以前に相続が発生した場合には,適用がありません。

改正の背景

例えば夫が死亡した場合に,妻は,長年夫と一緒に住み続けた自宅での生活を続けることを希望することも多いと思います。
特に,妻が高齢の場合,住み慣れた家を離れて新しい場所で生活を始めることは精神的にも肉体的に大きな負担となることもあります。
そうすると,高齢化が進んでいる日本において,配偶者の居住権を保護すべき必要性は高まってきていると言えます。

しかし,これまでは,例えば子がその家を相続した場合には,配偶者が居住を続けられる法的な根拠はありませんでした。
また,配偶者が自宅を相続した場合,自宅の価値が高いことも多いため,他の遺産(預金など)を相続することができなかったり,代償金を支払うことになったりして,生活に困るということもありました。

そこで,今回の相続法改正により,一定の条件の下で,配偶者が被相続人所有の家に,仮に所有者が変わったとしても,終身または比較的長期の間,無償で住み続けることができる権利として,配偶者居住権を新設することになりました。

具体例

では,簡単な例を挙げてみます。

夫が死亡し,その遺産として価値が3000万円の自宅と預金3000万円の合計6000万円があり,相続人が妻と子供1人(相続分はそれぞれ2分の1ずつ)だったとします。

妻が今後もこの家に住むことを希望した場合,これまでの相続法では自宅の相続を受けることが考えられますが,そうすると,法定相続分に従えば,妻は預金の相続を全く受けられなくなり,今後の生活に不安が生じます。

しかし,改正された相続法の下で,配偶者居住権の財産的価値が1000万円,自宅所有権の価値が2000万円だったとした場合,妻に配偶者居住権が認められると,自宅の所有権を子どもに相続してもらうことで,妻は,自宅に住み続けることができるほか,預金も2000万円を相続することができることになり,今後の生活も安心になるということになります。

なお,配偶者居住権の財産的価値の算定ですが,簡単には建物敷地の価値から負担付所有権の価値を引いた額ということになり,当事者間での協議で解決させる場合には,有効な方法となるでしょう。
他方,厳密に査定する場合には,不動産鑑定士など専門家による評価が必要になります。 

配偶者居住権の成立要件

では,どのような場合に配偶者居住権が認められるでしょうか。

改正相続法では,大きく,①遺産分割や遺贈による場合と,②裁判所の審判による場合とが規定されています。

①遺産分割や遺贈による場合

相続が開始した後,相続人間で遺産分割の協議や調停を行い,その中で配偶者の居住権を認める合意がなされたときや,被相続人があらかじめ遺言によって配偶者に居住権を遺贈することを明らかにしていたときに,配偶者居住権が認められることになります。

②裁判所の審判による場合

家庭裁判所において遺産分割の審判がなされているときに,各相続人が配偶者に居住権を取得することについて合意していたり,配偶者が配偶者居住権の取得を希望していることを前提として配偶者の生活維持のために特に必要があると認められるときに,家庭裁判所が配偶者居住権を取得する旨の審判をすることで,配偶者居住権が認められることになります。


そして,配偶者居住権は,原則として配偶者が亡くなるまでの間存続することになりますが,遺産分割協議書や遺言,家庭裁判所の審判に別段の定めがあるときは,その定めに従うと規定されています。

配偶者居住権の効力

次に,配偶者居住権を取得した場合の効力を挙げていきます。

① 建物の使用

当然のことながら配偶者は,自宅に住むことができます。ただし,配偶者は,これまでの用法に従わなければなりません。
賃借建物に住む場合と似ています。

また,配偶者居住権は他人に譲渡することはできませんし,所有者に無断で増改築をしたり,第三者に使用させたりすることはできません。
配偶者居住権は,配偶者の居住環境を保護するために,新所有者の建物であるにもかかわらず,無償で使用できる権利だからです。

② 登記請求

配偶者居住権を取得した配偶者は,その旨の登記を所有者に請求することができ,所有者には登記義務が生じます。
配偶者はこの登記をすることで,自分の配偶者居住権を第三者に対しても主張することができます。

③ 居住建物の修繕,必要費などの負担

配偶者は,建物に住むために必要な修繕をすることができます。この修繕をするときに,所有者の承諾は必要ありません。
一方,建物の所有者も,配偶者が必要な修繕をしない場合には修繕をすることができます。

また,例えば固定資産税の支払いや通常の修繕費など,居住建物に通常かかる必要費は,配偶者が負担しなければなりません。
一方,例えば災害などで建物が損傷した場合の修繕費やリフォーム工事費用については,一定の制限がかかることがありますが,建物の所有者に負担してもらうことができます。

配偶者居住権の消滅事由と消滅した場合の効果

最後に,配偶者居住権の消滅について触れておきます。
配偶者居住権は,以下の事由が生じた場合に消滅します。

消滅事由

① 配偶者の死亡

② 期間満了

  配偶者居住権の期間が定められている場合,
  その期間の満了により,配偶者居住権は消滅します。

③ 義務違反

  配偶者が,用法順守義務違反をしたり無断で増改築したりなど
  法律に定められている義務に違反した場合において,
  所有者がその是正を催告したにもかかわらず,
  是正がされなかったときは,所有者は配偶者居住権を消滅させることができます。

消滅した場合の効果 

配偶者居住権が消滅し,配偶者がその建物について,共有持分も持っていない場合には,配偶者は建物を所有者に返還しなければなりません。

そして,建物を返還するとき,配偶者は,建物に生じさせた損傷を元に戻さなければなりませんし(原状回復義務),建物に付属させた物があるときには,それを収去しなければなりません(付属物の収去義務)

ただし,通常の使用によって生じた損耗や経年変化,さらには配偶者の責任でつけたのではない損傷については,原状回復義務は生じません。
また,付属物の収去義務については,建物から分離することができない,または分離するのに高額な費用が生じる場合には生じません。

なお,配偶者が死亡している場合には,その相続人が以上の義務を相続することになります。

 

配偶者居住権が認められたことで,今後の遺産分割に大きな影響が生じることになると思われます。
配偶者居住権がどのような制度なのか,ある程度知っておくことは有意義なことだと思います。

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