2020年3月4日

消滅時効ルールが変わります

弁護士 守重典子 

 オリンピックイヤーと言われる2020年──,実は法律の世界においてもとても重要な年といえるのです。
 なぜなら,これまで約120年間ほとんど改正されてこなかった,民法のうち債権法の大改正がおこなわれるからなのです。債権法とは,民法に定められているルールのうち,私たちが日ごろ生活するなかでの,契約関係や,権利義務関係などのルールを定めている部分のことを言い,今回の大改正によって,私たちの生活に密着した様々なルールにも少なからず影響が出てくると考えられます。

 債権法改正法が施行されるのが2020年4月1日からということで,今回は私たちの生活にも身近な債権法のうち,「消滅時効」に関して,どのように法律が変わるのかについてご紹介したいと思います。

そもそも消滅時効とは?

 「時効」という言葉を,一度は聞いたことがあるという方が大半だと思います。
 「時効」(消滅時効)とは,権利者が権利を行使できるにも関わらず,法律で定められた一定の期間,その権利を行使しない場合に,権利者がもっていた権利を行使できなくなることをいいます。

 たとえば,Aさんが10万円をBさんに貸して,返済期限が過ぎたのに,AさんがBさんに対して何らの行動にも出ないまま長期間が経過した場合,Bさんから「もう時効だよ」と主張されると,AさんはBさんに「貸したお金を返せ」と主張することができなくなってしまい,こうした効果を生み出す制度のことを時効と言います。

 なぜ,このような制度があるかというと,長期間続いた事実状態を保護しようとか,権利を長い間主張しなかった権利者は,もう法律が保護しなくて良いんじゃないかなどという考えに基づいています 

現在の消滅時効

  そして,現在の民法では,消滅時効は,原則,権利を行使できるときから10年間で成立すると規定されています(現行民法167条1項)。
  上の例で言うと,Bさんが返済期限を過ぎてもお金を返さないにも関わらず,AさんがBさんに対して何も請求をしないまま10年間を経過してしますうと,Aさんの権利が消滅時効にかかってしまうことなります。

 さて,「原則10年間で消滅時効が成立する」というのは,消滅時効が成立する期間について,いくつかの例外も定められているためです。
 例えば,商売を営む人が売ったり,買ったりした権利は5年間で消滅時効にかかるという規定が商法に定められています(商法522条)。また,いわゆる飲み屋のツケの代金は1年間で消滅時効にかかるといった,職業ごとに原則よりも短い消滅時効を定める特別の規定も設けられています(現行民法170条~174条)。

 しかし,このような例外規定がくつかあると,「いったい自分の持っている権利は何年で時効にかかってしまうのか分からない」という指摘がされていました。

新法の消滅時効

 そこで改正法では,上のような,商行為によって生じた債権は5年間で消滅時効が成立するという規定や,職業ごとに定めた短い消滅時効期間の規定を廃止し,消滅時効期間を以下のように統一させました(改正民法166条1項)。

   ① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間

   ② 権利を行使することができる時から10年間

 改正法では,上の①と②のうち,いずれか早い方に消滅時効が成立することとなりました。なお,法律上,①を「主観的起算点」,②を「客観的起算点」と呼びます。

 注意したい点は,売買契約やお金の貸借契約など,何らかの契約によって発生した債権については,権利者が通常は「権利を行使することができる時」に同時に,「権利を行使することができることを知っている」と改正議論の中では考えられているため,①と②のスタート時期は通常は重なると考えられていることです。

 つまり,AさんがBさんにお金を貸し,「〇月△日までに返すね」という約束をした場合,「〇月△日」を経過したときには,AさんはBさんに「お金を返せ」という権利を行使できるということを普通知っているだろうと考えられることになるのです。
 そうすると,実際上は,新法で規定される①と②のうち,早く到来するのは①であると考えられますから,実質的には消滅時効期間が10年から5年に短縮されると考えた方が良さそうです。

 

 ※もちろん,すべての債権について,主観的起算点と客観的起算点とが一致すると考えることはできません。
  例えば,雇用契約上の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権など,権利を行使する前提として,事実関係を十分に認識する必要があるような権利については,主観的起算点と客観的起算点がずれる場合も出てくると考えられています。

不法行為による損害賠償請求権についての事項

 さて,上で説明した原則の消滅時効期間とは別に,不法行為については,例外的な消滅時効期間が定められています。不法行為とは,事件や事故などによって,生命や身体,財産が侵害された場合のことをいい,この場合に被害者から加害者に対する損害賠償請求権について,現在の民法では「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間」(現行民法724条)と定めています。

 新法では,不法行為のうち,生命又は身体を侵害されたことによる損害賠償請求権の時効期間を3年間から5年間に長期化し,被害者の保護を厚くしたという改正点があります(改正民法724条の2)。

 あくまで,「生命又は身体を侵害された」場合に限定されるので,例えば,モノを壊されたという場合の損害賠償請求権は,3年間で消滅時効にかかるということになるので注意が必要です。

 ※なお,医療過誤や労働災害の場合は,不法行為だけではなく,債務不履行に基づいて損害を請求することも法的には可能となります。生命又はその身体を侵害された場合に,債務不履行に基づく損害賠償請求権についても,原則の消滅時効期間(客観的起算点)を延長し,「権利を行使することができる時から20年間」としています(改正民法167条)。

私の持ってる損害賠償請求権の消滅時効は3年?5年?10年?

 これまで見てきたように,消滅時効の期間が変わるということになると,今まさに自分がもっている権利がいったい何年で時効にかかるのかが気になるところとなってきます。

➤一般債権の場合

 まず,契約によって発生した権利について,施行日前に権利が発生した場合や,権利の発生の元となる契約がされた場合には,現行法の消滅時効の規定が適用されます。

 たとえば,つぎのような事例を見てみましょう。
 <例> 
  ・2019年6月 AさんとBさんとで30万円を貸す契約をして,お金を貸した。返済期限は2020年5月30日と定めた。

  ・2020年4月1日 債権法改正施行

  ・2020年6月 Bさんが借りたお金を結局一円も返済しない。

 

 上記例の場合、AさんがBさんに対して貸したお金を返せと請求できるのは、改正法の施行後ですが、AさんのBさんに対する権利の元となったお金の貸し借りの約束は改正法の施行日前にされています。そのため、上記の例ではAさんのBさんに対する権利の消滅時効については現行法が適用され,10年間の消滅時効にかかると考えられます。

➤不法行為債権(生命又は身体を害するもの)の場合

 生命又は身体の侵害に対して,加害者に対して有する不法行為債権については,施行日時点で現行法の民法によつ消滅時効が完成していない場合には,改正法が適用されます。

<例>
 ・2017年6月24日 AさんがBさんの運転する車にひかれ,交通事故に遭う。

 ・2018年4月1日 交通事故によってAさんの負ったケガの治療も終わり,AさんがBさんに対して,確定した損害額(治療費,逸失利益,後遺症に関する損害etc)を請求した。

 

 上記例の場合,改正法施行日時点で,AさんのBさんに対する請求権は消滅時効にかかっていません(現行法の消滅時効は「損害及び加害者を知った時から3年間」なので,2018年4月1日から時効がスタートすることになります)。

 したがって,AさんのBさんに対する請求権については,改正法の施行によって,自動的に改正法の消滅時効が適用されることとなり,時効期間は5年間となります。AさんのBさんに対する消滅時効が完成するのは,2018年4月1日から5年が経過した2023年4月1日ということになります。

さいごに

 上のように,改正債権法のうち,消滅時効部分だけでも私たちの生活に少なからず影響が出ると考えられます。
 特に,一般債権については,実質的に消滅時効期間が短くなると考えるべきですから,より早め早めに弁護士に相談することが重要といえるでしょう。

 「権利を放ったままにしていたらいつの間にか時効にかかっていた!」なんていうことのないように,ぜひ早い段階でのご相談をお待ちしております。

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