2019年11月28日

「ハラスメント」について

弁護士 鈴木幸子

1 はじめに

 「ハラスメント」とは,広くは嫌がらせという意味ですが,何らかの法的責任が発生するのは,そのハラスメントが通常人が許容できる範囲を超えた権利侵害になる場合です。働く人に対する「ハラスメント」として問題とされている主なものとしては,「パワーハラスメント」「セクシュアルハラスメント」「マタニティハラスメント」最近では,「パタニティハラスメント」も問題とされるようになりました。
 いずれにしても,ハラスメント行為は,人権にかかわる問題であり,働く人の尊厳を傷つけ,職場環境の悪化を招き,ひいては,職場全体の生産性にも悪影響を及ぼしかねない問題であることを認識する必要があります。
 以下,それぞれについて,説明します。

2 パワーハラスメントとは

 「パワーハラスメント」(以下「パワハラ」と言います)とは「職場における優越的な関係を背景に,主として,職場で働く人に対して,適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる言動」を言います。
 厚生労働省は,典型的な行為類型として
①暴行・傷害
②脅迫・名誉棄損・侮辱その他ひどい暴言
③隔離・仲間外し・無視
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害
⑤業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること,仕事を与えないこと
⑥私的なことに過度に立ち入ること

の6つを挙げています。具体的にどのような言動がパワハラに当たるかは,厚生労働省が年内に指針で明らかにする予定です。 厚生労働省のホームページで確認してください。

3 セクシュアルハラスメントとは

 「セクシュアルハラスメント」(以下「セクハラ」と言います)とは「主として,職場で働く人が,その意に反する性的な言動に対する対応により,労働条件について不利益を受けたり,性的な言動により就業環境が害されること」を言います。
 基本的には受け手が不快に感じた場合にはセクハラとなると考えた方が良いでしょう。少なくとも,受け手が不快感を訴えているにもかかわらず言動を止めない場合には,セクハラになることは明らかです。具体的に,どのような行為がセクハラになるかは,厚生労働省がセクハラ指針で定めています。 厚生労働省のホームページで確認してください。

4 パワハラ・セクハラの共通の問題点

(1)パワハラ・セクハラが問題となる「場所」

 対象となる「職場」とは,通常就業している場所以外であっても,業務を遂行する場所であれば職場に含まれます。その例としては,取引先の事務所取引先と打合せをするための飲食店顧客の自宅出張先業務で使用する車中,職務の延長と考えられる宴会などが挙げられます。

(2)保護の対象等

 保護の対象には,職場で働く人(フリーランスも含みます)に限らず,就職活動中の学生教育実習生等も含まれると考えるべきです。また,上司から部下のみならず,同僚間部下から上司取引先から顧客から等も含まれます。セクハラでは,男性から女性のみならず,女性から男性同性間も含まれます。

(3)法的責任 

 パワハラ,セクハラの行為者が損害賠償責任(休業や退職を余儀なくされた場合の休業損害や逸失利益,うつ病等を発症した場合の治療費,慰謝料等),刑事責任(暴行罪・傷害罪・脅迫罪・強要罪・名誉棄損罪・侮辱罪・強制わいせつ罪・強制性交等罪・ストーカー行為規制法違反罪・軽犯罪法違反罪・迷惑防止条例違反罪等に該当する場合)を負うのは当然のことですが,事業主も使用者として損害賠償責任を負う場合があります。
 また,事業主が,セクハラ被害やパワハラ被害を申告した者に対して不利益な取り扱いをした場合には,そのことについての損害賠償責任を別途負うことになります。パワハラやセクハラが原因でうつ病等の精神疾患を発症した場合には,労災補償の対象になる場合もあります。

5 マタニティハラスメントとは

 「マタニティハラスメント」(以下「マタハラ」と言います)とは,「主として事業主か行う,妊娠・出産したこと,育児や介護のための制度を利用したことを理由として不利益な取り扱いをする行為(解雇,減給,降格,不利益な配置転換,契約を更新しない等),または,妊娠・出産したこと,育児や介護のための制度を利用したこと等に関して,上司・同僚が職場環境を害する言動(上司が制度を利用することについて不利益な取り扱いをすることを示唆する・制度の利用を阻止する,上司や同僚が繰り返し嫌がらせをする等)を行うこと」を言います。

6 マタハラの問題点

(1)採用時の問題

 採用面接の際に,妊娠の有無を質問すること,採用が内定した後に妊娠していことが判明したことを理由に内定を取り消すこと,試用期間後の本採用を拒否することは原則として許されないので,注意をする必要があります。

(2)法的責任

 事業主や行為者が損害賠償責任(経済的な損害,慰謝料等)を負うことはもとより,パワハラ・セクハラと重なる場合も多く,その場合には,刑事責任を負う場合もあります。また,労災補償の対象になる場合もあります。

(3)事業主の職場環境配慮義務

 事業主には,妊娠中の労働者に対して,業務軽減のための具体的措置を講ずる等の職場環境に配慮する義務があります。

7 パタニティハラスメントとは

 パタニティハラスメント(以下「パタハラ」と言います)とは,子育て中の男性が職場で嫌がらせを受けることを言います。
 法律は,そもそも女性に限らず男性に対しても,等しく育児や介護のための制度を利用する権利を認めています。これまで,圧倒的に女性が利用することが多かったのですが,最近では,男性も制度を利用するようになったため,注目されてきた問題だと思います。したがって,本質はマタハラと何ら変わるところはありません。

8 セクハラ・パワハラ・マタハラに対する事業主の措置義務 

(1)事業主の予防措置義務

 事業主は,予防のための必要な措置を講じなければなりません。
 具体的には,パワハラ・セクハラ・マタハラが許されないという方針を明確に示して,研修などでそのことを職場全体に周知・啓発すること,相談窓口を設置すること,相談しやすい体制・迅速かつ適正に対処する体制を整備すること,就業規則その他の職場における服務規律を定めた文書において,それぞれの定義を明示し,防止のために必要な順守事項を定め,パワハラ・セクハラ・マタハラを行った者に対する懲戒規定を定めることです。

(2)事業主の事後的な対処措置義務

 相談を受けた担当者は,いつ,誰から,どのような行為を受けたか,目撃者がいたか等の事情を聴き取り,相談者のプライバシーを守りつつ,行為者,目撃者等に対して事実関係の確認を行い,速やかに,行為者及び相談者に対して必要な措置を講ずるとともに,再発の防止に向けた対策を講じなければなりません。

 

※セクハラ・マタハラについては,すでに厚生労働省が指針で定めています。ホームページで確認してください。
 パワハラについては,大企業には2020年6月から,中小企業には2022年4月から適用されます。義務を履行しない事業主に対しては,厚生労働省が改善を求め,従わなければ企業名が公表されます。年内には指針が明らかにされます。

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