2019年2月20日

新・事業承継税制

弁護士 金田恒平

1 事業承継とは?


 事業承継とは,現経営者から後継者へ事業のバトンタッチを行うことをいいます(中小機構「平成30年度版中小企業経営者のための事業承継対策」10頁)。
 具体的には,企業がこれまで培ってきたヒト,モノ(自社株式,事業用資産等),カネなどを後継者に引き継ぐことをいいます。
 事業承継の方法は,親族内承継(経営者の身内への承継),親族外承継(役員や従業員等の社内の人物への承継,M&A等の社外の第三者への承継)に大別されます。

2 事業承継にまつわる税務


 事業承継に際しては,さまざまな税務問題に直面することとなります。
 事業承継先が法人である場合は法人税が問題になります。
 中小企業の現経営者が後継者に対し非上場の自社株式を引き継ぐ場合,その方法として売買,贈与,相続などがありますが,これらについては所得税,贈与税,相続税が問題になります。

3 事業承継税制


 事業承継の円滑な進行に寄与すべく,2008年に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が制定され,非上場株式の納税猶予制度が設けられました。
 この制度は,中小企業の先代経営者が後継者に対し,事業承継により自己の保有する非上場の自社株式を贈与・相続させる場合に,後継者が負担すべき贈与税・相続税について要件を満たす場合には納税が猶予・免除されるというものです。
 具体的には,次のとおりです。

 贈与税・相続税の納税猶予・免除

 中小企業の後継者(受贈者)が,①贈与又は②相続(遺贈)により,都道府県知事の認定を受けた非上場株式等を,先代経営者(贈与者)から取得し,会社を経営していく場合は,発行済議決権株式総数(当該後継者が贈与前から既に保有していた株式を含む)の3分の2までの部分について,①先代経営者の死亡等の日まで贈与税全額の納税が猶予され,②後継者の死亡等の日まで課税価格の80パーセントに対応する相続税の納税が猶予されます。
 先代経営者又は後継者の死亡,後継者(二代目)が次の後継者(三代目)に一定の贈与を行ったなどの場合には,納税猶予されている贈与税や相続税の納付が免除されます。

4 新・事業承継税制


 このような事業承継税制が設けられたにもかかわらず,適用要件が厳格で手間がかかるなどの理由から,なかなか利用されませんでした。
 そのような中,我が国の中小企業の事業承継は遅々として進まず,中小企業経営者の高齢化が顕著になってきました。
経済産業省によれば,30万人以上の経営者が平均引退年齢の70歳に到達しており,そのうち50パーセント以上の企業は後継者への事業承継が進んでいないとのことです。
 このまま何の手当もなされないと,中小企業の廃業が進み,雇用の喪失に伴う経済への影響が避けられません。
 このような状況に鑑み,2018年度の税制改正で既存の事業承継税制の抜本的見直しが行われ,事業承継を促進するための特例制度(新・事業承継税制)が創設されました。

5 特例制度の適用を受けるための手続


 この特例制度は,既存の事業承継税制を大幅に緩和する例外的措置であるため,2018年1月1日から2027年12月31日までの10年間に行われる贈与・相続が対象の時限立法となっています。
 特例制度の適用を受け,贈与税・相続税の納税猶予を受けるためには,次の手続きを経たうえで,贈与税・相続税の申告書の提出期限までに担保(納税猶予額に猶予期間中の利子税を加えた額)を提供する必要があります。
 この担保には,不動産や有価証券などのほか,納税猶予対象の非上場の自社株式全部をあてることができます。

特例制度により贈与税・相続税の納税猶予を受けるための手続の流れ


① 特例承継計画の策定,都道府県知事の確認
 2023年3月31日までに,特例承継計画を策定し,都道府県知事の確認を受けます。
 特例承継計画の策定にあたっては,認定経営革新等支援機関(商工会,商工会議所,金融機関,弁護士,公認会計士,税理士等で認定を受けた者)の指導・助言を受ける必要があります。

② 贈与の実行,相続の開始

③ 認定申請
 都道府県知事に対し特例円滑化法の認定申請を行い,認定を受けます。
 贈与の場合は翌年の1月15日までに,相続の場合は相続開始後8か月以内に行う必要があります。

④ 税務署への申告,担保提供
 都道府県知事の認定書の写し等を添え,贈与税・相続税の申告書を税務署に提出します。
 贈与税の申告期限は贈与の翌年の3月15日まで,相続税の申告期限は相続開始から10か月以内です。
 申告期限までに担保(納税猶予額に猶予期間中の利子税を加えた額)を提供する必要があります。

⑤ 年次報告書,継続届出書の提出(申告期限後5年間)
 年1回,都道府県庁へ年次報告書,税務署へ継続届出書を提出します。

⑥実績報告(5年経過後)


⑦継続届出書の提出(6年目以降)
 3年に1回,税務署へ継続届出書を提出します。

 

※特例制度により贈与税・相続税の納税猶予を受けるための手続の詳細は,中小企業庁や国税庁の下記ホームページをご参照ください。
・中小企業庁:「経営承継円滑化法申請マニュアル 【相続税、贈与税の納税猶予制度の特例】 平成30年4月施行」
・国税庁:「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし(平成30年4月)」)

6 新・事業承継税制のリスク


次世代後継者への課税リスク


 後継者(二代目)が,新・事業承継税制の適用を受け,次世代後継者(三代目)に対し,代表権や非上場の自社株式を引き継ぐことで,今回猶予されている贈与税・相続税(後継者が先代経営者から引き継いだ分についての贈与税・相続税)は免除されますが,次世代後継者にかかる贈与税・相続税まで当然に免除されるわけではありません。
 次世代後継者にかかる贈与税・相続税の全額を猶予してもらうには,再度,新・事業承継税制の適用を受ける必要があります。
 もっとも,今回の新・事業承継税制は時限立法であるため,次世代後継者の事業承継のときには存在していない可能性があります。
 その場合には,既存の事業承継税制(上記3)を使わざるを得ないこととなります。
 既存の事業承継税制の場合,納税猶予・免除対象となるのは発行済議決権株式総数の3分の2までです。
 また,贈与・相続した発行済議決権株式総数の3分の2までの株式のうち,贈与税は全額の納税が猶予・免除されますが,相続税は課税価格の80パーセントに対応する部分しか猶予・免除されないこととなります。
 このように,次世代後継者が引き継いだ株式の全てが猶予・免除対象となるわけではなく,将来的な課税リスクがあるため,注意が必要です。

納税猶予の取消リスク


 事業承継税制には,数多くの猶予取消事由があります。
 猶予取消事由に該当してしまうと,原則としてその事由が生じた日から2か月を経過した日をもって納税猶予の期限が確定し,猶予額及び利子税を直ちに支払わなければなりません。
 猶予取消事由は次のとおりです。
(申告期限から5年間の取消事由)
・後継者に関するもの
 代表者を退任した,対象株式の全部又は一部を譲渡した,同族関係者とあわせて議決権数が50パーセントを下回った,同族関係者内で筆頭株主でなくなった,対象株式の議決権に制限が加えられた,先代経営者が再び代表権を有することとなった等。
・従業員に関するもの
 常時使用する従業員数が5名を下回ることとなった,常時使用する従業員数の5年間の平均が贈与時・相続時の80パーセントを下回り,かつ,これを満たせない理由を記載した書面を提出しないとき等。
・その他
 資産管理会社となった,売上高が0円となった,上場会社となった,風俗営業会社となった,会社分割をした,組織変更をした,合併により消滅した,解散した,破産又は特別清算をした,減資をした,都道府県への年次報告書や税務署への継続届出書の提出を怠った等。

(申告期限から5年を経過した後も残る取消事由)
・後継者に関するもの
 対象株式の全部又は一部を譲渡した。
・従業員に関するもの
 常時使用する従業員数が5名を下回ることとなった。
・その他
 資産管理会社となった,売上高が0円となった,会社分割をした,組織変更をした,合併により消滅した,解散した,減資をした,都道府県への年次報告書や税務署への継続届出書の提出を怠った等。

7 結び


 非上場の自社株式の評価が高い場合などに,新・事業承継税制の計画的な適用を実現することができれば,贈与税や相続税の全額の猶予・免除という大きなメリットを受けることができます。
 他方で,新・事業承継税制の適用に際しては,法律面・税務面の複雑な手続やリスク等がありますので,弁護士,公認会計士,税理士等の専門家の関与が必要不可欠です。
 新・事業承継税制の適用をご検討される際は,まず,これらの専門家にご相談されることをお勧めします。

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