2025年10月31日

小型家電製品の事故による生命、身体または財産に対する侵害について

弁護士 今村 翔

はじめに

近年、小型家電製品の発火・爆発事故による生命、身体または財産に対する侵害(身体に怪我を負うことなど)が多発しています。
実際に令和7年度もこのような事故(モバイルバッテリーが爆発したことにより、身体に怪我を負う事故など)が起きています。

そこで、今回は、架空の事例(事例1と事例2)をもとに小型家電製品の事故について、法的観点から解説したいと思います。

事例1

福岡県福岡市の家電小売店(以下、家電小売店を「E」とします。)において、ハンディファンを購入し(製造業者(いわゆるメーカーのこと)、を以下、「M」とします、なお、Mの主たる営業所は福岡県福岡市と仮定します。)、国内を外出中(埼玉県さいたま市と仮定します。)にハンディファンを利用していたところ、突然内蔵バッテリーが爆発し、購入者(以下、購入者を「A」とします。)や周りにいた人(以下、爆発事故の周りにいた人を「B」とします。)が身体に傷害を負った。

なお、AさんとBさんどちらも大阪府大阪市に住所があり、損害額200万円と仮定します。

事例2

インターネットを利用してC国在住のC国人からハンディファン(メーカー(М)の主たる営業所を含めた全ての営業所はD国にあると仮定します。)を購入し、国内を外出中(埼玉県さいたま市)にハンディファンを利用していたところ、突然内蔵バッテリーが爆発し、購入者(A)と周りにいた人(B)が身体に傷害を負った。

なお、合意管轄(国際裁判管轄権(後で説明します。)を当事者の合意で定めること、民事訴訟法3条の7参照)はないと仮定します。

事例1について

1 債務不履行・不法行為について

まず、何らかの契約関係がある場合、債務不履行責任(民法415条参照)を問うことが考えられます。

一般的に債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った履行をしないことをいいます。
なお、「債務の本旨」とは、債務の本来の目的という意味と捉えてください。
事例1では、Eが欠陥のないハンディファンを引き渡す義務があったところ、爆発事故を起こす欠陥のあるハンディファンを引き渡したことが債務の本旨に従った履行をしないことと考えます。

そのため、Aさんは、Eに債務不履行責任を問うことが考えられますが、家電小売店は単に目的物の仲介をするにすぎず、Eに帰責事由(過失など)が認定されることはおよそないと考えられます。

また、Mとは何ら契約関係がないため、いずれにしろ、債務不履行責任を問うことはできないと考えられます。

また、Bさんは、EとMともに契約関係がないため、債務不履行責任を問うことはできないと考えられます。

次に、契約関係がない場合や債務不履行責任を問うことが難しい場合、不法行為責任を問うことが考えられます。

一般的に不法行為とは、加害者が被害者の権利・利益を侵害した場合に、加害者をして被害者の損害を賠償させる義務を負わせる制度を不法行為といいます。

民法(709条以下)では、一定の要件(加害者の過失など)のもと、加害者が被害者に対してその損害を賠償する義務を負うと定めています。

そこで、事例1では、AさんとBさんは、Mに対して、不法行為により損害賠償を請求することになります。

しかし、民法では、不法行為責任を追及する場合、請求する側において、メーカー側の過失を主張・立証しなければならず、ハンディファンの構造や製造過程について専門的な知識をもたない人にとって、メーカー側の過失を証明することはとても困難といえます。

2 製造物責任法について

そこで、民法の特別法(民法に優先して適用される法)にあたる製造物責任法(以下、「法」といいます。)3条本文では、過失の代わりになる要件として、法3条本文では、製造物の「欠陥」(当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること(法2条2項参照)をいいます。)により、人の生命、身体または財産が侵害された場合、製造業者の責任を問うことが可能になっています。

そのため、法に定められた一定の要件を満たした場合、AさんとBさんは製造物責任法に基づく損害賠償を請求することが可能になっています。

3 裁判管轄について

なお、裁判管轄(どこの裁判所に訴状などの書面を提出したらよいかという問題)については、事物管轄(訴訟の第一審手続を簡易裁判所と地方裁判所のどちらに分担させるかの問題)と土地管轄(どこの裁判所が担当するかという問題)について説明します。

事物管轄については、事例1では、損害額200万円と仮定しているため、簡易裁判所ではなく地方裁判所の管轄ということになります(裁判所法33条1項1号、同法24条1号参照)。

土地管轄について検討すると、
①Mの主たる営業所が福岡県福岡市にあることから(被告の主たる事務所又は営業所の所在地・民事訴訟法4条4項参照)、福岡地方裁判所、
②債権者である原告(AさんとBさん)の現在の住所が大阪市にあることから(義務履行地(民法484条1項・民事訴訟法5条1号参照)、大阪地方裁判所、
③損害発生地がさいたま市であることから(不法行為地・民事訴訟法5条9号、なお不法行為地には、加害行為地のみならず損害発生地を含むとされています。)、さいたま地方裁判所

に訴え提起することが可能と考えられます。

第2 事例2について

1 国際裁判管轄について

次に、事例2を検討します。
なお、事例2では、不法行為責任を中心に解説します。

まず、事例2では、事例1とは異なり、日本だけではなく外国(C国やD国)も関連しており、このような場合を渉外的法律関係といいます。
渉外的法律関係では、まず、国際裁判管轄権が問題になります。

国際裁判管轄権とは、日本の裁判所が訴えについて審理する権限を有するかどうかという問題になります。
つまり、日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められない場合、日本で訴え提起をすることはできません。

日本の国際裁判管轄権は、管轄原因(民事訴訟法3条の2等)が日本に認められ、日本の国際裁判管轄権を否定する特別の事情による訴えの却下(同法3条の9)が認められない場合に認められます。

事例2についてみると、Mの主たる営業所は全てD国にあるため、被告住所地に日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められません法3条の2第3項)。

そこで、製造物責任法3条に基づく損害賠償請求は不法行為地に関する訴えにあたるため(民事訴訟法3条の3第8号)、同号を検討します。
不法行為地には、被害者救済の観点から、加害行為地のみならず、結果発生地が日本にあるときに日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められると解されています。
事例2では、爆発事故が起きたのが日本であることから、結果発生地が日本となるため、同号により日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められることになります。
なお、今回、特別の事情による訴えの却下(民事訴訟法3条の9)の検討は省略します。

結論として、事例2では、日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるということになり、AさんとBさんは、日本で訴え提起することができます。

2 準拠法について

次に、事例2のような場合に日本法である製造物責任法が適用されるとは限りません。
なぜなら、渉外的法律関係において、常に日本法を適用すると、外国法人や外国人にとって日本法の適用を予見することが困難な場合もあり、日本法の適用が当事者間の公平の点からみて問題があるからです。

そこで、国際私法(渉外的法律関係上の問題に適用される法(以下、「準拠法」といいます。)を決定するための法体系の総称をいいます。)で準拠法を決定することになりますが、その大部分が法の適用に関する通則法(以下、「通則法」といいます。)により決定されます。
つまり、通則法で決定された準拠法を事案に適用して法的問題を解決することになります。

そこで、事例2について、AさんとBさんの準拠法を検討します。

Aさんについて

まず、Aさんの製造物責任法3条本文に基づく損害賠償請求は、不法行為の問題として、法律関係の性質決定(渉外的法律関係上の問題が、通則法のどの条文の問題かを決定すること、以下、「法性決定」といいます。)がされると考えられます。

通則法17条に不法行為の条文がありますが、同法18条には生産物責任の特例の条文があります。
18条が適用されるのは、生産物責任、例えば、小型家電製品の爆発事故によって、身体に傷害を負った場合などの問題に適用されるので、「被害者」であるAさんには同条が適用され得る可能性があります。

同法18条では、生産者の予測可能性と被害者の正当な期待の保護の双方をみたす中立的な地といえることなどを理由として、「生産物の引渡しを受けた地の法による」とされており、「引渡し」とは生産物の占有の移転をいい、事例2では、ハンディファンが日本に郵送され、占有の移転があった日本が「生産物の引渡しを受けた地」にあたります。

なお、同条ただし書きには、「その地における生産物の引き渡しが通常予見することのできないものであったときには、生産業者等の主たる事業所の所在地の法」と規定されていますので、Mにおいても日本でのハンディファンの引き渡しを予見できた事情(Mにおいて、他国(C国)での売り上げが大きく貢献していることを認識していたことなどの事情)があれば、Aさんについては、同条本文により、準拠法は日本法となるということになります。

つまり、事例1と同様、Aさんは、製造物責任法による損害賠償請求をすることになるということになります。

Bさんについて

Bさんの製造物責任法3条本文に基づく損害賠償請求も、不法行為の問題として、法性決定されると考えられます。

同法18条には生産物責任の特例の条文がありますので、Bさんについても同条が適用され得る可能性があります。
しかし、Bさんは、ハンディファンの引き渡しを受けた人ではありませんので、そもそも18条が適用されるか問題になります。
18条は、「被害者」という文言になっていますので、Bさんのように生産物の引き渡しを直接受けていない人や偶然事故に巻き込まれた人(このような人をバイスタンダーといいます。)も「被害者」に含まれるのかが問題になります。

バイスタンダーは、生産物の欠陥について何ら無関係であることなどを理由として、被害者と同一視できる事情(引き渡しを受けた人の同居の親族など)がない限り、18条の適用は否定されると一般的に考えられていることから、原則として18条の適用は否定され、同法17条によって、準拠法が決定されることになります。

17条は、被害者救済の観点から、「加害行為の結果が発生した地の法」によるとされています。
同条ただし書きでは、加害者の国際私法上の利益を考慮し、結果発生が「通常予見することのできないもの」であった場合(加害者の立場において、通常予見出来たか否かが判断されます。)、「加害行為が行われた地の法」によるとされていますので、Mのようなメーカーの立場から、通常予見できたか否かを判断し、通常予見できたといえれば、結果発生地は日本であることから、通則法20条により明らかにより密接な関係がある地がない限り、同法17条本文により、結果発生地法である日本法が準拠法となることになります。

つまり、事例1と同様、Bさんは、製造物責任法による損害賠償請求をすることになるということになります。

おわりに

最後までお読みいただきありがとうございました。
このような事故に遭い、法的にお悩みを抱えている場合は、お気軽にご相談ください。

以上

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