「改正相続法案」国会に提出

弁護士 鈴木幸子

 

 

私は,さいたま家庭裁判所で調停委員として遺産分割調停事件を常時数件担当している。

 

解決が長引く事件の多くは,遺産の大部分が自宅不動産とか農地とかで,現金や預貯金がほとんど無い場合である。

亡くなった人が,「同居して家業を継いでいる長男に遺産のすべてを相続させる。」という遺言を残した場合であっても,他の相続人は最低限の取り分として法律上保障されている遺留分を主張することができる。例えば,相続人として,長男のほかにすでに独立している長女と二男が居た場合には,長女と二男は,遺留分として,それぞれ,遺産の2分の1の3分の1すなわち6分の1ずつの取り分を主張できる。

長男としては,自宅不動産は手放せないし,農地も容易に処分することはできない。

長女や二男としても,不動産を取得するのではなく,遺留分相当額を現金で支払ってもらいたい。

しかし,前述のように,遺産には現金や預貯金がほとんどなく,長男自身にも十分な蓄えがない。

となると,調停では結局協議が整わず,不動産はすべてが長男持分3分の2,長女と二男が持分各6分の1の共有になってしまうのである。

 

これを,長女と二男が何が何でも現金化したいとなれば,地方裁判所に共有物分割請求の裁判を起こさなければならなくなる。

このような争いを防止するためには,亡くなった人が,生前に遺留分相当額の預貯金を蓄えておき,その預貯金は長女と二男に相続させる旨の遺言を残す必要がある。

 

通常国会に提出される「改正相続法案」では,遺留分を主張できる相続人に対し,新たに遺留分侵害額請求権という権利を認め,遺留分相当額を支払わなければならない相続人が現金をすぐに用意できない場合には,裁判所の判断で支払期限を延ばすことができる仕組みも設けられる。

また,「改正相続法案」では,婚姻期間が20年以上の夫婦であれば,夫が「自宅不動産も含め,遺産のすべてを妻に相続させる」旨の遺言を残した場合,自宅不動産は遺産分割の対象から除外されることになるため,仮に,子どもたちが遺留分を主張した場合でも,妻は自宅不動産を処分する必要はなく,妻の他の遺産に対する取り分も増えることになる。