AI(人工知能)は裁判を変えるか

弁護士 沼尻 隆一

 

 

AI(人口知能)についての議論が,最近どこでも盛んです。

私の中では史上ベストスリーに入る傑作だと思っている佐藤史生さんの「ワン・ゼロ」という今から30年以上前に描かれた漫画で,一種のマッドサイエンチスト?である童門教授が人間の意識・無意識を探索する「捜神プロジェクト」の実行の為に開発した「マニアック」という「自己推論・学習型」コンピューター(つまりAI)が,あることをきっかけに「覚醒」し,自己意識を持つようになる場面があります。

漫画の登場人物の一人は,そのように自己意識を持つようになった「マニアック」を評して,既にそれは「生きる意志と目的を持った力(エネルギー)」すなわち「生き物」だと言いました。

 

新聞や雑誌によれば,医師や弁護士,会計士などといった高度な専門職の仕事も,いずれ「AI」に取って代わられる可能性が高いそうです。なにせAIの「IQ」は人間のそれをはるかに凌駕していますから,むしろ,そのような高度な知的能力・論理的思考力を要求される仕事ほど,「AIに取って代わられやすい」傾向があるのではないかと思います。

また,AIが自動運転している車が,前方の状況に応じて,事故回避のために,高度な倫理的・責任的判断を要求されるような場面も出てきそうです。(倫理学上,いわゆる「トロリーバス問題」とか,「トロッコ問題」とか言われる問題があり,ある事故結果を回避するためには別の人命等を犠牲にしなければならないような場面でどう行動するか,瞬時に極めて重大な責任判断を要求される場面があります。)

 

このような場合に備えて,AIにも人間や会社と同じような「法人格」と「責任能力」を持たせようという議論も既になされています。

そして,将来的には,もしかしたら,「AI裁判官」が出現して,「人が人を裁く」のではなく「AIが人を裁く」(あるいは,「AI」が「AI」を裁く?)といったことが,現実となるかも知れません。

 

そうなってくると,例えば刑事裁判においては,人間以上に精密な事実認定と深遠な責任判断がなされる結果,有罪とされるために必要な「合理的な疑いを容れる余地のない」立証のハードルが高くなるかも知れませんし,逆に,量刑については人間以上に厳しいかも知れません。

 

果たして,「AI裁判官」は出現するでしょうか。また,AIは裁判の世界をも変えるのでしょうか。