黒くぬれ(PAINT IT BLACK)

弁護士 堀 哲郎

 

 

「黒くぬれ」と聞いて,即座にローリング・ストーンズを思い浮かべる年配の人は多いのではなかろうか。

1966年6月30日ビートルズが来日し,日本中が大騒ぎになった。

中学2年のときだった。

 

当時,ビートルズについては,「ミッシェル」や「ガール」など初期の名曲を収録したレコードを持っていたほどで,決して無関心ではなかった。

むしろ,熱狂とまではいかなくても興味津々であった。

 

にもかかわらず,あろうことか武道館での来日公演のテレビ放送を見逃し,仲間からは散々バカにされた。

見逃した原因は定かではないが,もしかしたら,同じ頃,ローリング・ストーンズの「黒くぬれ」(原題「PAINT IT BLACK」)を聴いたからかもしれない。

 

初めて聴いたとき,カミナリに打たれたような衝撃を受けた。もっとも,カミナリに打たれたことはないが,学生時代,卒業研究(「光電子増倍管サンプリング回路の分解時間向上に関する研究」)の実験中,400ボルトの電圧(電流値は不明)に感電したことならある。

ビリビリというような感覚ではなく,ドーン!という感覚であった。

いずれにせよ,魂を激しく揺さぶられ,震えるような衝撃を覚えた。

 

以来,来る日も来る日も繰り返しレコード(当初はシングル盤,その後アルバムを購入)をかけ続けた。

それでも高校時代は,ロックから離れ,フォークの岡林信康に傾倒したが,大学時代に入ると,再び,グランド・ファンク・レイルロード,マウンティン,レッド・ツェッペリン,ピンク・フロイド,ディープ・パープル,ユーライア・ヒープなどのいわゆるヘヴィメタに狂い,ロック喫茶に入り浸った。

しかし,引越しを繰り返すうち(高校卒業以来1980年1月に現住所地に落ち着くまでに7回引越をした。),大量にあったレコードはいつしかどこかへ消えてしまった。

 

月日は流れ,1990年弁護士となり,以来超多忙な毎日を送っていたある日,レコード店(この頃は既にCDが主流になっていた。)でローリング・ストーンズのベスト・セレクションを謳うCD(当然,「黒くぬれ」も収録されている。)を発見し,即購入した。

自宅に帰って「黒くぬれ」を聴きまくったのは言うまでもない。

大いにストレスを発散した。

当時同僚だった村木一郎弁護士もストーンズのファンであることがわかり,互いに共感した。

同じく同僚だった深田正人弁護士はクラシック派で,お気に入りはブルックナーであったが,私にはよくわからなかった。

 

その後,音楽を聴くことはほとんどなくなった。

わずかに,たまに思い出したように演歌を聴くだけである。

もちろん酒を飲みながら・・・。

 

ところが,つい最近,何を思ったのか,突如「黒くぬれ」が聴きたくなり,永らく書棚の隅に眠っていたCDを引っ張り出して聴いてみた。

するとどうだ,それまで沈んでいた気持ちが一気に吹っ飛び,あの震えるような感動が蘇えり,涙が溢れてきた。

そして,何か忘れていたものを思い出したような,そんな安らいだ気分に浸ることができた。

つくづく,人間にはこうした時間(ひととき)が必要なんだなあと思った。

 

ところで,ローリング・ストーンズ(私が狂った当時のメンバーは,ミック・ジャガー,キース・リチャーズ,ブライアン・ジョーンズ,ビル・ワイマン,チャーリー・ワッツの5人)については,早くに亡くなったブライアン・ジョーンズを除き,70歳を過ぎた今もなお,ハード・ロックの王者として現役を続けているという事実にも勇気づけられている。