稲荷山古墳(明日香村・番外編)

弁護士 堀 哲郎

 

2016年(平成28年)12月30日付け朝日新聞朝刊の社会面に『稲荷山古墳に「真のあるじ」?』という見出しの記事が掲載された。
これまで,本ブログでは,「明日香村再び」,「明日香村3」と題して,明日香村(奈良県)について繰り返し触れてきたが,これは,明日香村が古代史に関わる資料の宝庫だからである。
前記新聞記事は,埼玉県にも,古代史に関わる,しかも第一級の(古代史を塗りかえた)資料が存在することをあらためて思い起こさせてくれた。
言わずと知れた「金錯銘鉄剣」であり,国宝となっている。
埼玉県民はもちろん,埼玉県内に職場をもつ私も大いに誇っていいと思う。

 

その鉄剣は,1968年(昭和43年),埼玉県行田市にある埼玉(さきたま)古墳群のうち最初につくられた稲荷山古墳から,鏡や勾玉,武具,馬具などとともに出土した。
当初は,古代史を塗りかえるほどの価値ある資料とは認識されず,そのように認識されるに至ったのは,10年後の1978年(昭和53年)になってからである(その経緯については,八木荘司の「古代からの伝言・日本建国」(角川文庫)にドキュメンタリー風に詳しく書かれている。)。
すなわち,1978年(昭和53年),エックス線撮影で金象嵌の銘文が確認され,「辛亥年(471年),杖刀人首(親衛隊長)として獲加多支鹵大王(ワカタケル大王)を補佐した乎獲居臣(ヲワケ臣)が剣を作らせた」などと解読され,「ワカタケル大王」などの表記が記紀(古事記・日本書紀)における雄略天皇(漢風諡号)の和風諡号の表記(古事記では「大長谷若建」,日本書紀では「大泊瀬幼武」で,いずれも「オオハツセワカタケル」と言う。)と一致したことから,471年(5世紀後半)当時,ヤマト王権の支配が,少なくとも東国(関東)にまで及んでいたことが明らかになった。
一方,中国の宋朝の正史「宋書」中の倭国伝には,いわゆる倭の五王(讃,珍,済,興,武)が宋に朝貢した旨の記載がある。
讃,珍,済,興,武がいずれの天皇に該当するのかについては諸説あるが,最後の武が第21代雄略天皇であることについてはほぼ一致している。
そして,武すなわち雄略天皇は,478年に宋の順帝に上表し,父祖以来の功績について「……東は毛人を征すること五十五国,西は衆夷を服すること六十六国,……」などと述べ,ヤマト王権の支配が東国(関東)から西国(九州)にまで及んでいることを誇示している。
すなわち,「金錯銘鉄剣」の銘文は「宋書」倭国伝の記載とも一致するのである。
要するに,宋書や記紀などの書面上の記載から窺われる事実が「金錯銘鉄剣」という物的証拠(客観的資料)によって完全に裏付けられた(証明された)のである。
「金錯銘鉄剣」が古代史に関わる第一級の資料とされる所以である。

 

ところで,私が初めて「金錯銘鉄剣」の存在を知ったのは,司法修習生の頃で,1989年(平成元年)の弁護実務修習のときである。
すなわち,当時の弁護実務修習の一環として,埼玉弁護士会熊谷支部訪問というのがあり,その際,吉見百穴や埼玉古墳群など熊谷支部管内の名所旧跡を訪れ,埼玉古墳群では,さきたま資料館に展示されている「金錯銘鉄剣」の実物を観た次第である。
当時,修習期間は2年(現在は1年)で,このうち1年4ヶ月が実務修習に充てられていた(裁判修習8ヶ月,検察修習4ヶ月,弁護修習4ヶ月)。
上記修習(名所旧跡の見学等)も修習期間に十分余裕があったからこそであろう。
今思うと実に有意義な修習であった。
もっとも,私が古代史にハマッタのは,弁護士になって以降,1997年(平成9年)に黒岩重吾の「天の川の太陽」(中公文庫)を読んでからであり,したがって,上記修習との間に因果関係はない。
余談だが,この「天の川の太陽」(主人公は大海人皇子すなわち後の天武天皇,クライマックスは「壬申の乱」)については,ぜひともNHKの大河ドラマでやってもらいたいと思っている。
同じく黒岩重吾の「中大兄皇子伝」(講談社文庫)(大海人皇子の兄である中大兄皇子(後の天智天皇)が主人公,クライマックスは大化の改新の契機となった「乙巳の変」)と合体すれば,大河にふさわしい壮大なドラマが出来上がると思うが,いかがであろうか。

 

さて,先の新聞記事であるが,今般の東北大研究チームと埼玉県立さきたま史跡の博物館の共同調査によれば,鉄剣の持ち主と古墳の真のあるじが異なる可能性があり,ひいて古墳の真のあるじの出自についても東国か畿内か議論になるとのことで,この先ヤマト王権の地方経営のあり方について,その詳細がどこまで解明されるのか,興味は尽きないところである。

 

(ここから文体を変えます。)最後に,現在も出版されているかどうかわかりませんが,一応参考文献として,以下の書籍を紹介しておきます。

ワカタケル大王 黒岩重吾 文春文庫
古代史の迷路を歩く 黒岩重吾 中公文庫
古代史への旅 黒岩重吾 講談社文庫
古代史を読み直す 黒岩重吾 PHP文庫
古代史の真相 黒岩重吾 PHP文庫
古代史の秘密を握る人たち 関裕二 PHP文庫
古代史謎解きの「キーパーソン50」 関裕二 PHP文庫
古代日本の謎 神一行 学研M文庫
古代からの伝言・日本建国 八木荘司 角川文庫
記紀の考古学 森浩一 朝日文庫
現代語訳古事記 福永武彦訳 河出文庫
日本全国見物できる古代遺跡100 文芸春秋編 文春新書
(人物編)日本の歴史がわかる本[古代~鎌倉時代] 小和田哲男 三笠書房