弁護士殺害事件から考える犯罪被害者と報道

弁護士 吉岡 毅

 

先日,秋田県(秋田キャッスルホテル)で開催された「第18回犯罪被害者支援全国経験交流集会」に参加しました。


前回は今年の1月に金沢で開催されており,私はその際にも出席しています。そのご報告は,こちら( 弁護士吉岡毅の法律夜話 「寄り添う心と支援の距離感」 )を参照ください。
基本的には年1回の開催なのですが,先の金沢での開催がいつもの時期より少し遅かったらしく,今年は年2回開催になっています。

 

 

 

今回のメインテーマは,秋田市で発生した「弁護士殺害事件」についての特別報告と,犯罪被害者に関する報道についての検討会です。

 

秋田の弁護士殺害事件は,ご記憶の方も多いと思います。
元妻の代理人であった弁護士が,相手方となっていた元夫に殺されてしまったという痛ましい事件です。そして,ただ痛ましいというだけではない出来事が,そこにありました。

 


犯人の元夫は,弁護士が元妻をそそのかしたに違いないと勝手に思い込み,弁護士をさらって裁判所に立てこもり最後には弁護士を殺すといった計画を立て,拳銃や刃物などを準備して,深夜に弁護士の自宅に侵入しました。

 

自宅内で犯人は被害者に加薬入りのベストを着せようとしたり,被害者や奥さんに拳銃を突きつけて殺そうとしたりしました。そんな中で,被害者の奥さんが何とか警察に助けを求めました。

 

警官二人が駆けつけたとき,拳銃を持った犯人と被害者と奥さんが三人でもみ合っているところでした。

そして,それを見ていたはずの警察官は,その後,二人がかりで「被害者」の両腕をつり上げてを取り押さえたのです。

 

もちろん,被害者も奥さんも,必死で「オレは被害者だ」「あっちだ」などと警察官に教えました。

 

しかし,その隙に犯人は自由に動いて刃物を取りに戻ったうえ,警察官二人の目の前で,被害者の弁護士を刺し殺しました。

 

裁判の中で,弁護士には責められるような点など一切無かったことが明確になる一方で,犯人は「被害者は殺されるようなことをしたから殺されたなどと臆面もなく放言しており,真摯な反省心が著しく欠如している」などと指摘されました。

 

事件から約5年半が経ち,長かった刑事裁判は,無期懲役の判決で確定しました。

 

けれども,それからさらに4か月が過ぎた今,警察に対する国家賠償請求訴訟は,まだ続いています。

 


交流会では,ご遺族である奥さんが,これまでの経緯とその時々のお気持ちを,ゆっくりと語ってくれました。
弁護士である私自身,日々直面することのあり得る危険でもあり,我が事のように胸を打つお話でした。

 

 

 

さらに,交流会の後半では,犯罪被害者に関する報道を考えるパネルディスカッションなどが行われ,加害者に関する報道と被害者に関する報道を対比しながら,様々な議論がなされました。

 

その中で,複数の報道関係者からの発言は,「被害者については,実名報道をするのが基本的考え方である」という内容に終始していました。

しかし,「では,被害者を実名で報じなければならないと考える理由は何なのか?」という質問に対しては,「実際のところ,合理的な説明はできない」という回答なのです。

 

発言者は,過去の取材経験を通じて,被害者や遺族のお気持ちについて相当な理解を有するベテランの報道関係者の方です。
それでも,このような古く凝り固まった考え方から一歩も抜けられていないのが実情なのだと,あらためてよく分かりました。

 

 

 

弁護士にとって,被害者支援は非常に困難の多い活動分野のひとつですが,私のライフワークの欠くべからざる一部として,少しずつ少しずつ,自分のできることをしていきたいと思います。