熱狂時代

弁護士 堀 哲郎

 

中学2年の夏休み,父に連れられて中日球場に中日-巨人戦を観に行った。
父にプロ野球の試合を観に連れて行ってもらったのは,後にも先にもこのとき一度限りである。
父は当然ながら中日ファンであったが(岐阜は中日の準フランチャイズである。),私は,当時は巨人ファンだった(巨人・大鵬・玉子焼の時代であった。)。
というより,大の長島茂雄ファンであった。
記憶は曖昧となっているが,試合は8回まで巨人が3点リードしていたように思う。
巨人の投手はエースの城之内。
すると父が,突然,帰ると言い出した。
試合が終わってからだと球場から出るのに長時間かかるということらしい。
そして,帰りの車の中,父と私は,ラジオで,中日の新人広野が,城之内をリリーフした,同じく新人の堀内投手から,代打逆転サヨナラ満塁本塁打を放ったのを耳にし,この歴史的瞬間を目撃し損ねたことを腹の底から悔しがったのであった。
このときの影響かどうか定かではないが,高校に入る頃には,巨人のV9戦士森捕手が高校の先輩であったにせよ,私は,ガチガチの中日ファンに,否,巨人さえ優勝しなければいいというアンチ巨人に変貌を遂げていた。
強者に対する反発心もあったのであろう,大相撲でいえば,アンチ大鵬で柏戸ファンであった。
そんなわけで,大学入学後,中日が20年ぶりにリーグ優勝した瞬間をテレビで目の当たりにしたときは,涙を流しながら,「燃えよドラゴンズ」を放歌高吟した。
……1番高木が塁に出て~,2番谷木が送りバント~
そして,この年,スーパースター長島茂雄は「巨人軍は永久に不滅です」と言って,静にバットを置いたのである。
その後,有力選手が次々と大リーグに流出するようになると,プロ野球に対する興味は急速に薄れていき,今やプロ野球中継を見ることはほとんどなくなった。

 

替わって興味は1993年に発足したJリーグに移っていった。
当時,浦和で弁護士をしていたことから(1990年登録),他のサッカー好きの弁護士と同様,当然の如く浦和レッズ(レッドダイヤモンズ)のファンとなった。
確か,前身は三菱重工サッカー部で,過去に日本リーグでの優勝経験も有していたと思う。
ところが,Jリーグ発足当初は,Jリーグのお荷物と言われ,毎年最下位争いを演じていたが,そんなところも応援したくなった理由かもしれない。
もっとも,新聞やテレビで見た試合結果に一喜一憂する程度で,試合会場には一度も足を運んだことがなく,「そんなのはファンとは呼ばない」などと水口弁護士あたりから言われそうである。
それでも,日本代表の野人岡野(浦和レッズ)の決勝ゴールでワールドカップ初出場を決めた瞬間,その4年前のドーハの悲劇の瞬間も,まざまざと脳裏に焼き付いている。
特に,ドーハの悲劇では,選手はピッチに座り込んで茫然自失の態であったが,それをテレビで観ていた私もまさに茫然自失の状態であった。

 

ところで,戦後の昭和の時代,国民はプロスポーツに熱狂していた。
とりわけ,プロ野球,プロレス,プロボクシングに対する国民の熱狂は圧巻であった。
プロレスについて言うと,力道山vs鉄人ルー・テーズ(得意技:バックドロップ(脳天逆落とし)),力道山vs吸血鬼フレッド・プラッシー(得意技:噛み付き),力道山vs壊し屋デストロイヤー(得意技:4の字固め)の各世界タイトルマッチには日本中が熱狂したものである。
しかし,その後,ヒーロー力道山が客死し,また,プロレスのショービジネスの実態が明らかになるにつれて人気は衰え,ついには熱狂時代に幕を下ろすことになった。
因みに,力道山は,元大相撲の力士であり(関脇まで上がったと思う。),「力道山」というのは,そのときのしこ名である

 

プロボクシングについては,日本人で初めて世界チャンピオンになったのは白井義男であるが,真っ先に挙げなければならないのは,何といっても,米屋の小僧をしながらボクシングジムに通ったというファイティング原田であろう。
不敗の王者エデル・ジョフレを破った世界タイトルマッチで,「原田ラッシュ! 原田ラッシュ! 原田ラッシュ!」と繰り返
されるアナウンサーの絶叫は,今も鮮明に耳に残っている。
世界チャンピオンのまま交通事故死した,天才ボクサー大場政夫も忘れられない。
ただ,プロボクシングもまた,プロレスと同様の運命を辿ることになった。
かつて複数あったボクシングの定時番組(「ダイヤモンドグローブ」等)はなくなり,今では不定期に世界タイトルマッチだけが放送されている。
原因は世界チャンピオンの粗製乱造にあると私は思っている。

すなわち,まず競技団体が,以前は,WBAとWBCの2団体だったのが,その後,IBFとWBOが加わり,現在では4団
体になっていることに加え,これが最大の原因だと思うが,世界タイトルマッチを多く作り出すため,階級をやたらと細分化してしまったのである。
結果,世界チャンピオンの粗製乱造につながり,統一世界王者,真の世界王者,5階級制覇の王者などといった言葉が出現することになった。
試合そのものがつまらなくなったのは言うまでもない。

 

熱狂時代は遠くなりにけり。
これが,今の私の率直な心境である。
この先,何に熱狂しようか……?

 

以上,独断と偏見に基づき,勝手放題,好き放題に述べてきた。
また,文献等にあたることは一切しておらず,あくまでも自分の記憶にあるがままに述べているので,多々間違いがあるかもしれない。
何卒ご容赦を!