鹿児島強姦えん罪事件 ~DNA鑑定に翻弄される刑事裁判(2)

弁護士 吉岡 毅

 

前回( 鹿児島強姦えん罪事件 ~DNA鑑定に翻弄される刑事裁判(1) )の続きです。


控訴審で「被告人の精液ではない」という明確なDNA再鑑定の結果が出た後も,検察官は,まだあきらめませんでした。
DNA再鑑定の結果が出た直後に,最後に残っていた極めて微量の精液資料を勝手に使って再々鑑定を行い,大切な証拠を使い切ってしまったのです。

 

しかも,検察官は,再々鑑定で少しでも有利な結果が出たときだけ証拠提出するつもりであり,不利な結果なら最後まで隠しておこうと考えていたため,裁判所にも弁護側にも一切秘密裏に再々鑑定をしていました。
再々鑑定の結果は科学的に意味のない内容でしたが,なぜか自分に有利になると勘違いした検察官が後から喜々として証拠請求したため,検察官によって秘密のうちに大切な証拠が破壊されてしまったことが判明したのです。


控訴審判決は,検察官の行為に対しても痛烈な批判をしています。

 

捜査で集めた裁判の証拠は,事件の真相解明のために多額の税金を使って保管されているもので,有罪の根拠にも無罪の根拠にもなります。

決して検察官や捜査機関の私物ではありません。

 

けれども,当の検察官は,自分の行為が正義に反すると批判されるなどとは,これっぽっちも思っていませんでした。
普段から当たり前のようにしていることなので,何も問題ないと考えて証拠請求したのです。

 

 

私は現在,日弁連・法務研究財団の研究員として,DNA鑑定を中心とする科学鑑定の様々な問題点について,専門的な研究を続けています。

 

確かに,DNA鑑定は科学的に正確に行われれば,有罪であれ無罪であれ決定的な証拠になり得ます。

 

しかし,決して万能ではありません。

 

何より,鑑定をするのは常に「人間」です。機械は正確でも,人間のやることには間違いや不正がつきまといます。
鑑定の手順や記録方法,鑑定の資料を使い切らずに再鑑定を保障することなどを厳格に法律で定めなければ,DNA鑑定書は,市民をえん罪に陥れる悪魔の証拠,言わば「デス・ノート」になりかねません。

 

また,捜査機関が集めた証拠は残らず全部弁護側に開示し,捜査機関によって勝手気ままな偽造や廃棄などがなされないような立法を,早急に行うべきです。

 

 

本件の被告人であった男性は,控訴審の逆転無罪判決までの間,2年4か月も身体拘束されていました。