成年後見と株式投資

弁護士 吉岡 毅


来週10月3日土曜日午後2時から,浦和法律事務所の公開市民講座が,浦和パルコ10階で開催されます。

今回のお題は「成年後見のイロハ」。私が講師を務めさせていただきます。


当日は,市民の皆さんの視点で成年後見全般について詳しくお話ししますが,そこでは触れられないであろうニッチな世界経済と投資のお話を一つ。



同じ成年後見人となる場合であっても,弁護士が専門職として裁判所によって選任される場合と,親族が後見人になる場合とでは,細かな点で違いが出てきます。

また,同じ専門職後見人弁護士の場合であっても,地域(裁判所)によって考え方や運用が違うこともあります。


その一例が,株式や投資信託等の扱いです。


専門職後見人の場合,被後見人(後見される人)の資産をできる限りそのまま維持することが求められます。


不動産は,ほっておいても増えも減りもしませんし,売却には面倒な手続が必要ですから,とりあえずそのままにしておけば維持できます。

預貯金や現金は,そのままでも別に減りはしませんが,使い込みにしろ泥棒にしろ,何らかの理由で費消されてしまうと後の祭りなので,とりあえず大きな資産は信託してしまうのが最近の運用です。


ところが,同じ金融資産でも,比較的短期間で大きな値動きのある株式・投資信託などの金融商品については,そのままにしておけばいいのか,売って現金に換えて管理すべきなのか,考え方が別れます。


少なくとも,当地さいたま家裁の現在の運用では,株式や投資信託について,特別な事情がない限り,「現状維持」をもって,おおむね適切な維持管理の方法と認められているようです。


しかし,ここ最近も,中国株式市場の混乱などに伴う世界経済の減速懸念から,日本株を含む全世界の同時株安が起きたばかりです。

長期的視野で見れば,今回の下げはまだ大したことはありませんが,相場のトレンドと資産に含まれている商品の特性によっては,一刻も早く売却した方が良い,という判断もあり得ます。「株=(投資ではなく)投機」という価値観も,一概には否定できないからです。

そのためか,聞くところによると,ある地域では,専門職後見人がつくと株式や投資信託等の金融商品は直ちに売却する運用となっているようです。


けれども,それはそれで一方的な感じもします。


たとえば,被後見人が世界経済の長期的成長を信じて,低コストのインデックス投資信託やETFに内外分散投資をしていた場合に,相場には上下があるからと言って成年後見人が有無を言わさず全部解約してしまうのでは,被後見人の投資哲学を全否定することになるでしょう。

そのようなことは成年後見人本来の職務権限を超える気がしますし,専門職成年後見人として資産運用に関する知識不足の感も否めません。機械的に現金化した行為が,暗愚の誹りを免れない可能性もあります。


本当は,専門職後見人が資産運用についての十分な知識をもって個別に対処すべきですが,さすがに弁護士等の専門職後見人に誰でもプライベートバンカー並みの投資知識を要求するのは無理があります。


というわけで,原則として一律に現状維持という運用にも,一定の合理性があると考えられます。

専門職後見人としては,万人に平均して有用な守りの姿勢を選択するのが一般的でしょう。


ただ,これが親族後見人による財産管理の場合だと,親族後見人に被後見人と同等かそれ以上の投資知識があることを前提に,より深く被後見人の意思を酌んで,積極的に換価したり長期ホールドしたりといった個別の判断を,もう少しできるように思うのです。

少なくとも仮に私が親族後見人であれば,株や投資信託等の金融商品の管理については,個別銘柄毎に臨機応変かつ適切に判断したい(してあげたい)だろうと思います。


だからといって,あまり知識のない親族後見人が勝手をして良いことにもなりませんから,難しいところですね。



ここ最近の株価の乱高下を眺めながら,専門職後見人と親族後見人のわずかな違いについて,ちょっと考えてみました。

(なお,専門職であれ親族であれ,投機はもちろんダメですし,利殖目的の積極的投資が認められるわけでもありませんので,ご注意ください。)