親の葬儀にトレーナーとサンダルで行けという裁判官

弁護士 吉岡 毅

 

先日,ある刑事事件の被告人の実母が亡くなられました。


その被告人が起訴されていた罪は,かなり軽微な内容だったのですが,生活保護受給中でお金がなかったため保釈を受けることができず,裁判の第一回期日を待つ間もずっと警察での勾留(身体拘束)が続いていました。私はその国選弁護人でした。

ある朝突然,ご親戚の方から私宛てに,実母急死のご連絡が入ってきました。
その方は,被告人本人が葬儀等に出席することは法律上不可能だと思っていたようで,「ともかく,知らせるだけでも知らせてあげてください」とのことでした。
もっとも,このような場合,裁判官が許可すれば身体拘束状態を一時停止して,いったん自宅に戻り,葬儀に参加した後でまた警察に戻るということも可能です。
私は,ご親族の方と急遽打ち合わせて,勾留の執行停止を裁判所に申し立てました。

本来なら,一晩か二晩くらいはゆっくりお別れをさせてあげたいところでしたが,色々な事情もあり,翌日の葬儀だけでも何とか裁判官に参加を認めさせようと考え,葬儀当日の朝8時から夜9時までの執行停止を求めることにしました。

葬儀は昼過ぎからです。

被告人が警察に留置されている間は,逮捕時の普段着か,差し入れ品の部屋着か官服しか身につけていません。せいぜいTシャツやGパン,運動靴です。お風呂も週に2回程度しか入れません。その被告人は女性でしたが,所持品は部屋着のトレーナーとサンダルだけでした。もちろん化粧などは一切できませんし,警察に持ち込んでもいません。

そのため,裁判所が認めた執行停止の時刻に警察署を出て,いったん自宅に帰ってシャワーを浴び,化粧をして,喪服に着替え,少しでも早く駆けつけてご遺体と対面し,涙を拭くのもそこそこに葬儀準備の手伝いもしなければなりません。
移動時間を考えると,当日朝8時からの執行停止でも,かなりの駆け足になります。

葬儀後も,できる限りその日のうちに形見分けその他のできることを済ませたいとのことで,せめて遅い夕食を取れる程度の時間までは執行停止をしておきたいところでした。


担当のさいたま地裁の裁判官は,被告人・弁護人側に対して何の打診も事情の聴き取りもなく,一方的に,午前11時から午後5時までに限って執行停止を認めました。
警察と検察の事務処理の都合だけを聞いて,そのとおりに時間を決めたようです。

たとえ短時間でも執行停止が認められたのはよかったし,被告人も泣いて喜びましたが,私には怒りしかありませんでした。
被告人は,喪服に着替える時間すらないのではないかと,本当に心配でした。
本来なら争って文句を付けたいところでしたが,上級審の判断を受けるまでには葬儀が終わってしまいます。

仕方なく,当日の喪服や送迎の準備などをご親族と先に十分に打ち合わせて対応していただき,なんとか葬儀への参加だけはできたそうです。
ご親族のご協力がなければ,被告人は,何日もお風呂に入っていない,化粧もしていない状態で,汚れたトレーナーを着てサンダル履きで葬儀に出席することになったと思います。
この裁判官は,それでいいと思ったのでしょうか。


第一回公判で,検察官は被告人に対して,罰金求刑をしました。
判決も罰金刑でした。
被告人は,そのまま家に帰りました。


執行猶予どころか,そもそも懲役刑を求められるような事件でもないのに,被告人は3か月間も身体拘束されていました。
事件にも被告人にも色々な事情はあったとしても,やはり,裁判官は権力の使い方を間違っていたと思います。

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コメント: 2
  • #1

    ry (日曜日, 06 12月 2015 00:13)

    裁判官からしたらたった一人の被告人

    生き恥さらそうが死のうが関係ないんでしょうね?

    そもそも、人とは、見ていないじゃないんですかね?

    目の前の被告人は、目の前の事件であり

    被告人調書、検察の調書、単なる紙切れ

  • #2

    太郎 (金曜日, 17 2月 2017 00:09)

    あなたは本当に人間味と人情がある弁護士さんですね。
    あなただけなのかもしれませんが弁護士さんえの見る目が変わりました。どうかその気持ちを忘れずに仕事頑張って下さい